米中の貿易戦争は、いくつかの点で中国を変える可能性がある。その一つが、中国市場で国産品と外国製品の競争が始まることだ。もう一つは、不動産バブルの崩壊と住宅価格の下落により、中国の若い世代の持ち家率が上昇することだ。
価格が高騰して住宅の購入が難しくなっていたことは、中国人の家族形成における障害となってきた。そして、中国経済は婚姻率と出生率の低下、労働力の減少という問題に直面している。
労働力の減少は、望ましくない「依存率」の上昇につながり、国の財政にも問題を引き起こす。あまりに少ない労働者で、あまりにも多くの退職者の生活を支える必要に迫られるためだ。日本はすでにこの問題に直面しており、政府は借り入れをしなければ年金を支給することができなくなっている。
「毒された」資本主義
19世紀半ばの何にも拘束されず、抑制もされないビクトリア時代の英国の「自由主義」やそれに類似したもの、あるいは西部開拓時代の米国の資本主義のような構造になっている現在の中国の資本主義には、米国との貿易戦争だけでは変化は起こらないだろう。
中国の資本主義は、「手っ取り早く金持ちになろう」とする人たちによって広められてきた。
彼らは、例えば有害化学物質を原料に使った歯磨き粉やせき止めシロップ、品質基準を満たさない粉ミルク、欠陥のある家庭用電気製品といった品質が劣悪な商品によって、中国の消費者を危険にさらしてきたのだ。
そうした中国の資本主義を変えると考えられるのは、生産者ではなく消費者を経済の中心に据える現代的な資本主義を後押しし、利益は事業を行う理由ではなく、事業を行った結果であると捉えるコストコのような米企業の存在だ。
コストコは米企業の顧客満足度を指数で示す「米顧客満足度指数(ACSI)」の今年の調査結果で、アマゾンやウォルマートも上回っている。顧客の満足度は、生産者中心から消費者中心の社会に移行するためには欠かせないものだ。
「中国人は安値を追求する消費者として悪名高い」と指摘する米バンヤンヒル・パブリッシングのシニア・リサーチアナリスト、テッド・バウマンは、次のように述べている。
「中国では貯蓄が奨励され、派手な支出は良いこととされない。まとめ買いができるコストコは、そうした中国人の心理にとって魅力的なものだ。同社は中国では、価格を市場価格より30~60%(食品の場合は10~20%)低く設定している。さらに、品ぞろえに関して同社が十分な準備をしてきたことは明らかだ。賢明な配分で、国産と外国産の製品を取りそろえている」
こうしたことは、コストコが中国市場を真剣に捉えていることの現れだ。
また、バウマンによれば、「…コストコは、店舗の開業によって中国に進出したわけではなく、同国のネット通販大手アリババと契約し、5年間から同国で事業を行ってきた」
「同社はこの間に、オンラインで販売した商品の配送を行い、サプライチェーンを構築してきた。また、自社ブランドの認知度を高め、中国の消費者の間に高い期待感を生み出してきた。上海店の開業に対する関心を巧みに盛り上げてきたのだ──この戦略は間違いなく、非常にうまくいった」