福岡市はこれまでスタートアップ支援に関わるいくつかの「日本初」を成し遂げてきた。14年、福岡市はグローバル創業・雇用創出特区に指定。17年に受付が開始された、最大5年間全額免除になるスタートアップ法人減税(市税)や、19年3月には最長1年の在留が認められる外国人起業家向けのスタートアップビザ受付開始も日本初である。
行政が取り組む立て続けの「日本初」に、民間企業も呼応する。17年には高齢化が進む福岡市に対して、アクセンチュアが戦略策定支援としてデジタル技術の活用を提案。18年6月にはメルカリが運営するシェアサイクル「メルチャリ」の実証実験が初めて行われ、19年2月には、「電動キックボード」のシェアリングサービス提供に向けた実証実験にも福岡市は名乗りを上げている。
当然、すべての政策がすぐ受け入れられるわけではない。決定プロセスの見える化や自身のSNSを通じた発信によって、人々を「巻き込みながら」革新を続けている。面白そうな匂いを嗅ぎつけた人々が福岡市という「場」に集まり、彼らの間でまた面白いことが生まれる、好循環ができつつある。
非中央集権の連携はすでに始まっていた!
本誌が創刊した2014年秋、安倍政権が「地方創生」を打ち出した。しかし、毎年恒例となったローカル特集を始めたきっかけは、地方創生ではない。
本誌が着目したのは、米コロラド州リトルトン市という小さな町から全米に広まったエコノミック・ガーデニングという取り組みであった。冷戦末期、市内にあった軍需工場が閉鎖。数千人の失業者を出す危機に陥ったが、大手企業の工場を誘致しようとの声に対して、「減税など財政支援措置をして企業を誘致しても、企業の採算性によって撤退のリスクがつきまとう」という反対意見が出た。
ここで市が取り組んだのは、成長の可能性がある地元企業を探しては、行政、大学などの研究機関、NPO、住民、金融機関が、それぞれの得意分野で支援する試みである。ガーデニングという言葉は、植物を育てる意味から名付けられた。この取り組みによって、15年間で税収は3倍、雇用は2倍に増加。全米に広まったのだ。
だが、エコノミック・ガーデニングの手法は決して新しいものではなく、日本でもすでに行われている。35歳以下の若者起業率で全国1位の福岡市を筆頭に、ユニークな取り組みは報道されないだけで、実は多い。
創刊2年目以降も「逆転のアイデア33選」という特集を組み、アイデアを分類していった。繊維など斜陽産業を改良したりデザインで付加価値を加えたり。または、もとからある自然や古民家を再生する資源活用型まで多様な取り組みが続いている。
昔の頼母子講に似た信用をベースにした相互扶助のコミュニティは、クラウドファンディングによって外からお金を集められるようになり、インターネットで距離を超えて、コミュニティ同士が連携を始めているケースも増えている。「非中央集権」という言葉が世界で広まる前から、日本のローカルでは自然発生的に誕生していたのだ。