ビジネス

2019.07.09 10:00

オンラインとオフラインの境界が消える あるスーツブランド成功の秘密

Getty Images


FABRIC TOKYO CEO森 雄一郎
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一つは、下請け構造の適正化だ。生産工場はある一定の従業員を抱えている以上、稼働し続けなければビジネスが成り立たない。そのため多くの工場が、ときには「縫えば縫うほど赤字」になりかねない安価な案件でも、請けざるを得ない状況に陥っているという。

それを、工場との直取引で適正価格を設定し、工場、顧客、そして自社にとって“三法よし”の持続可能なサプライチェーンを構築したのだ。

もう一つは、テクノロジーによる効率化。従来のオーダーメイドでは、顧客データをマークシートに記入し、工場へ郵送した後、そのデータを改めて手入力する、といった非効率なやり取りが当たり前だったが、生産管理システムによって顧客データと商品データを一元管理し、クリック一つで工場へ発注できる仕組みを整備した。
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「工場の方と話していると、人手不足で採用にも苦労し、それこそコンビニに従業員を取られてしまうようなことも起きている。ムダをできるだけ排し、IT化することによって、職人さんには職人らしい仕事に注力してもらう。それがより良いものづくりにもつながってくると思うのです」

テクノロジーによる課題解決は、これにとどまらない。顧客は通常、店舗に出向いて採寸を行うが、登録されるのはサイズデータだけではないという。顧客データのうちサイズデータは3割ほどで、残り7割は身体の特徴や着こなしの好み、どんな興味関心があるかなど、ライフスタイルデータが登録されているのだ。

そのため、「サイズは合っているけど、フィット感が強すぎる」「もう少し袖丈が長いほうがいい」といったミスマッチを防ぐことができる。

「同じ体型の方が二人いて、同じ商品を提供しても、同じように満足していただけるとは限りません。お客様のパーソナルデータをなるべく具体的に収集し、お客様にレコメンドできればと考えています」

また、店舗は顧客とのコミュニケーションと採寸に特化し、「売らない店舗」を標榜している。

アパレルブランドやセレクトショップの多くはECを展開していても、実店舗には売上目標が紐づけられているため、ショップ店員は必死に接客せざるを得ない。その「買わせたい」という思いが透けて見えると、つい足が遠のいてしまう人も多い。「とりあえず店舗で採寸してみるだけ」という気軽さ、オーダー特有の「敷居の高さ」を低くしてくれる。

「洋服をECで購入することはだいぶ浸透してきましたが、スーツとなるとやはり、これまで通り実店舗で購入したい人がほとんどでしょう。それなら、これまで通り『お店に出向く』方法が顧客体験のベースとしてあったほうが、顧客フレンドリーでもある。それにITの利便性をアドオンすることで、一歩先ではなく“半歩先”ゆく顧客体験を提供できれば、と考えています」
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文=大矢幸世

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