6月に株主総会がピークを迎え、新たに取締役になった人は、大きな期待と不安を胸に抱いているのではないでしょうか。“期待”はやりがいと役員報酬、そして大きな権限。“不安”は会社経営の舵を握る責任の重さなどでしょうか。
中には、不安の方が大きくて、取締役への打診に二の足を踏む人もいるでしょう。その理由として、株主や投資家等から経営責任を問われて会社訴訟や株主代表訴訟、第三者訴訟といった訴訟に巻き込まれるリスクが高まるからです。賠償請求額は高額化の傾向で、中には100億円を超えるケースもあり、高額の賠償金が確定すれば役員個人ではとても支払うことができません。
しかしながら、訴訟を恐れるあまりに消極的な経営になると、企業の成長にあたって必要となる適切なリスクテイクができず、世界と戦う上でも大きなマイナスとなりかねません。
今回は、取締役が抱える訴訟リスクに焦点をあて、その重要な経営ツールである「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」を取り上げます。
ますます重くなる役員の責任
取締役が訴えられるケースとしては、「新規参入事業に対して大きな投資を行ったが、それが原因で会社の経営に大きなダメージを与えたことから、経営判断に重大な過失があったとして株主代表訴訟を提起された」「提携先と共同で新プロジェクトに取り組んだが、会社が先行き不透明な状態になったため提携を解消したところ、新規事業にかかった費用が回収できなくなったとして提携先から役員が訴えられた」などが挙げられます。
訴訟に巻き込まれると、弁護士費用がかかるだけでなく、敗訴時には個人財産から賠償することになり、桁違いの賠償金を負担することになります。賠償しきれないまま本人が亡くなったとしても、その責任は遺族に相続されます。役員になるということは、経営に関する責任について、家族も巻き込まれるリスクがあることを意味しています。
その上、近年、役員など組織の舵取りをする人に課せられる責任が、重くなってきています。背景にあるのは、企業不祥事の多発やコーポレートガバナンス(企業統治)の強化です(図表1)。