会社以外の法人形態においても同様であり、医療法(2016年9月改正)や社会福祉法(2017年4月改正)では役員個人の責任が明文化される法改正が実施され、ガバナンスの強化が求められました。また、本年5月には改正私立学校法が成立し、来年4月には学校法人の役員の責任が厳格化される見込みです。役員や理事といった経営者個人に対して、より透明性や公平性、迅速性を求める動きが加速しています。
また、今後予定されている会社法改正では、取締役の報酬等の決定方針の見直し、社外取締役の設置義務化に加え、D&O保険に関する規律の明文化が予定されています。必置となる社外取締役の“なり手”を確保する上でも、健全な会社経営を担保するD&O保険への加入は検討しておきたいところです。
株主代表訴訟の係属件数は年間100件超
ここで、役員が巻き込まれる訴訟の現状に目を向けてみると、株主代表訴訟のほか、株主や投資家等から提起される第三者訴訟、会社から責任を求められる会社訴訟などがあります。株主代表訴訟は、役員が経営判断のミスなどで会社に大きな損害を与えた場合で、会社が役員に賠償請求(会社訴訟)をしないときに、株主自らが会社に代わって役員の責任を追及するために起こす訴訟のことです。社外取締役が訴えられたケースもあります。
地方裁判所における株主代表訴訟の係属件数は、1993年の商法改正で株主代表訴訟がしやすくなったことを受けて急増し、年間100件超の状態が続いています(図表2)。司法判断の基準が一定程度明らかになったことで2000年からいったん沈静化したものの、その後は再び増加に転じました。
近年は減少傾向にあるように見えますが、油断できない状態です。というのは、会社自身が原告となって役員の責任を追及するケースや、金融商品取引法21条等による開示責任を求めるケースなど、株主代表訴訟以外の手法で提訴されることも増えているからです。
なお、第三者からの訴訟の火種も、不祥事だけでなく、セクハラやパワハラ、過重労働など様々です。たとえば、従業員が過労死した際に、全社的な長時間労働を取締役は容易に認識できたのにもかかわらず問題を放置したことが原因とされれば、役員は任務懈怠責任を負い、遺族から役員個人に対して損害賠償請求されるというケースが実際に存在しています。