「レジデンシャル・エデュケーション」が日本に新しい人材をもたらす
小林亮介 HLAB代表理事
デジタル化と翻訳技術の進展に伴い、世界中の大学の講義が、「MOOCs」を通じて無償で公開され、どこでも高い質の授業を受けられるようになりました。単なる授業や情報の提供は、未来の学校の中心的な価値ではないという見方が広がっています。従来の教育は、学生の進路形成や人生設計を助け、人間的な成長を促すのに不十分だからです。
そこで、世界の一流大学が、新たに注目する教育のかたちが「レジデンシャル(居住型)・エデュケーション」です。その名の通り、寮生活を通じて多様な人たちと寝食を共にし、互いの経験や価値観から学び合い、刺激し合う教育のこと。仲間同士の学び合いを、新しい発想やモチベーションの源泉として、将来へのヒントを掴んでもらうのです。私たちはこれを「ピア(仲間)・メンターシップ」と呼んでいます。
例えば、ハーバード大学では、寮を中心に専攻や年齢の異なる学生や教員が自然と集まり、コミュニケーションや議論が始まる仕掛けが設計されています。結果的に同大の学生寮では、世代や分野を超えた仲間との議論から多くの研究や、フェイスブックやマイクロソフトといった企業、映画「LA LA LAND」などの作品が生まれ、私自身も起業に至りました。
日本にも寮はありますが、価格や安全性が重視され、居住空間を教育の中心的価値と捉える考えは普及していません。そこでHLABでは、2011年から高校生と世界10カ国以上から集まる大学生が寝食を共にするサマースクールを行っています。大きな成功を受けて、東京・中目黒と神奈川・湘南台で試験的にレジデンシャル・カレッジ(教育寮)を展開し、21年に本格的な全寮制学校を開く予定です。
オープンイノベーションなど、分野を跨いだ共創が重要な時代。複数企業が職場を共有するコワーキングなど、第三者による学びや刺激の価値が認められはじめました。多様な出会いと学びを生活の中に生み出す「コリビング(共住)」の発想は、学生寮のみならず、若手社会人向けの寮、複数の家族での子育てなど多くの可能性があります。若いうちから多様な人たちと共同生活し学び合うことが定着すれば、日本の将来の人材育成に大いに資するはずです。