また、2020年の保険適用を目指し、すでに薬事申請を行っていることも明らかにした。これにより2020年にも、医師が処方するアプリが誕生する可能性が出てきた。この画期的なアプリはどのように開発されたのか。同社代表取締役CEO兼医師の佐竹晃太に聞いた。
キュア・アップ代表取締役CEO兼医師の佐竹晃太
人生を変えた論文
佐竹は、国内の総合病院で呼吸器内科医として勤務後、中国の上海中欧国際工商学院でMBAを取得、その後米国へわたり、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院で公衆衛生学を学んだ。公衆衛生学のなかでも、ITやテクノロジーを臨床現場へ導入した際に起こる現象をアカデミックに評価する「医療インフォマティクス」を専攻した。
留学中に読んだ1本の論文が彼の人生を一変させた。「指導教官から渡された臨床現場における治療用アプリに関する論文を読んだときに衝撃を受けました。当時、糖尿病に特化した世界初の処方型治療用アプリであるWelldoc社のBlueStarがFDA(米食品医薬品局)の承認を受け、保険会社も保険償還を決定しました。その様子を間近で見て治療用アプリが未来の医療を変えるのではないか」という思いから、2014年に帰国し、すぐにキュア・アップを立ち上げた。
身近にいた最高のエンジニア
創業後、すぐに2つの壁が立ちはだかった。まず医師である彼にとってアプリケーションの開発は門外漢なこと。
「医学的な知識や治療ガイドラインに加え、医師が診察の際に日常的に考えている暗黙知を理解し、アルゴリズムにしなければならないので、高い技術力と専門性を有するエンジニアが必要不可欠だった」(佐竹)
禁煙指導に関する教科書には、喫煙者は起床後や昼食後に喫煙欲求が高まるなどと書かれている。しかし「30代の女性患者には自信をつけてもらう」「50代の自立した男性には知識よりもサポートのアドバイスをする」など教科書には載っていないが、専門医が臨床のなかで獲得し、暗黙のうちに共有している知があるという。彼が幸運だったのは、上記のような資質を備えた人物が身近にいたことだ。
慶應義塾大学の後輩で、同社の取締役CDO兼医師である鈴木晋は、医師でありながらも、学生時代からプログラミングを学び、Web制作会社やゲノム解析等様々な領域で活躍、オープンソースのライブラリを多数公開するなど、エンジニアとしても長けていた。