法律の規制
治療用アプリを日本で開発するには他にも弊害があった。薬事法(当時)の法的な規制だ。当時、医薬品とハードウェアである医療機器のみが保険適用の対象とされ、アプリケーションなどのソフトウェアは対象外だった。
「米国のBlueStarの臨床試験では、新薬と同程度、もしくは遜色ない治療効果が見られました。その結果に医師として身震いしました。医療現場におけるこの大きな価値は必ず普及するし、普及されるべきだと直感的に感じました。日本の法律もいずれは変わると楽観視していた」(佐竹)
直感は正しかった。2014年に改正薬事法(医薬品医療機器等法)が施行され、医療機器に単体プログラム(ソフトウェア)が追加された。
治療の空白期間を埋め、フォローするアプリ
禁煙外来では、ニコチン依存症に対し身体的依存と心理的依存の2つの側面からアプローチする。身体的依存に対しては、禁煙補助剤を服用しイライラなどの離脱症状を軽減する。心理的依存に対しては、3カ月で5回受診するなかで、医師や看護師などの医療従事者が禁煙指導を行う。しかし、1年後に禁煙を継続できている患者の割合は3割未満というのが現状だ。
「身体的依存には、禁煙補助剤が非常に効きます。一方、心理的依存に対しての治療介入が十分とは言えません。患者さんは、辛いながらも1ヶ月禁煙を続けているにもかかわらず、診察は数分〜十数分で終わることも多いです。これでは十分な心理的な介入ができません。弊社のニコチン依存症治療用アプリは、通院と通院の間の治療空白となる期間、起床時から就寝時までアプリが医療従事者の代わりとなり介入しフォローします。付属のデバイスから呼気CO濃度を測り、その日の気分を患者さんが入力すると、解析処理され個別化された治療ガインダンスをリアルタイムで自動配信します。
また、患者さんの喫煙欲求が高まった際には、アプリでボットナースとチャットすることで必要なタイミングで医学的に妥当性の高いメッセージを送ることが可能です。そうすることで患者さんに行動変容を促します」(佐竹)
記者会見では、現在禁煙外来で行われている標準禁煙治療プログラムに、同社のニコチン依存症治療用アプリを併用した場合と、その他のアプリを併用した場合の治験結果が発表された。9~24週における継続禁煙率は前者が63.9%、後者が50.5%と統計学的に有意に高く、ニコチン依存症治療用アプリが禁煙の継続に有効であることが確認されたという。