ビジネス

2019.05.24

地方で迎える新しい夜明け アーティストが生まれる土壌を育む

徳島県神山町は、起業家、移住者、地域住民らが 形成するコミュニティへと変貌を遂げた


今回、本誌が「クレイジー」という言葉で紹介したキーマンたちも、広義のアーティストと思えば理解しやすい。クレイジーの定義は、周囲から冷笑されてもためらいもなく失敗を繰り返し、夢中になって人のために創造を目指すことである。

アーティストの発生確率が高まる土壌はすでに日本にできている。本特集の「越境イノベーター」は、従来は困難とされてきたことを難なく超越している。可能にしたのにはいくつかの要素がある。

まず、「お上」である行政側が、アウトサイダーを積極的に受け入れるようになった。ベンチャーやスタートアップなど、外部企業との掛け算を試みる自治体も急激に増えている。例えば、空き家や空きスペースなど、負の遺産でしかなかったものをビジネスに転換させる視点は、部外者だからこそだろう。人口減少の対策として、自治体が「関係人口」を増やしたいという背景も重なった。

次に、アウトサイダーに賛同者が集まりやすくなったのは、「多拠点生活」という概念の登場が大きい。「アドレスホッパー」がトレンドになり、東京のサラリーマンが地方を旅して、地方企業で勤務して帰ってくる「トラベルワーク」や、定額で泊まり放題のサービスも登場。グラフの通り、二拠点生活者は増加している。



賛同者がアクセスしやすくなり、価値観を共有できるコミュニティが全国で無数に生まれている。複数のコミュニティに参加することで、人々の生き方は変わるだろう。これまで都会に出て競争社会に勝ち、成功のレールに乗ることが目標とされてきた。失敗したら、そこそこのレベルで我慢する「ふるい落とし型」の社会である。だが、選択肢が増え、参加するコミュニティも複数になることで、「居場所」を見つけやすくなっている。アウトサイダーの登場によって、地元の人々はレール以外の可能性を見つけ、眠っていた意識の扉を開いている。

政府が「地方のことは地方で」と、政策を大転換して約20年。信頼や価値観で結ばれた小さなネットワークが同時多発的に誕生するとは誰が予想しただろうか。「クレイジー」と呼ばれる人々に出会うと、首狩り族から人間の心理を研究した文化人類学者、故ミシェル・ロサルドのこんな言葉を思い出す。

〈情熱は知識と合わさると創造と愛をもたらすが、知識のない情熱は破壊と憎しみをもたらす〉

前者の新しい時代が、地方で夜明けを迎えようとしている。

文=藤吉雅春

この記事は 「Forbes JAPAN 地方から生まれる「アウトサイダー経済」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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