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2019.05.22

JALが80億円規模の投資ファンドを設立したワケ──背景にある「攻め」と「守り」

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2つの投資から見えた課題点。重要なのは「攻め」と「守り」の線引き

実は、JALがベンチャー企業に関わったのは、今回のCVC設立が初めてではない。2013年、JALは中長期的な視野での業務運営を考え、事業創造戦略部を発足。事業領域の拡大とイノベーションを目標に掲げ、2017年までに2件のスタートアップとの資本業務提携を決めている。

提携したのは、超音速旅客機を開発するアメリカのBOOM TECHNOLOGYと、宇宙での生活圏構築を目指す日本のispace。特に後者とは具体的な協業関係を構築しており、グループ会社のJALエンジニアリングがispaceの開発する月面着陸船の組み立てや溶接、検査を引き受けるほか、成田空港の整備施設を一部ispaceへ提供している。

ただし、これまでのスタートアップ企業との資本業務提携には、反省点も少なくなかったという。数年かかって提携したのはたった2件。「契約までのあらゆる段階で、判断に時間がかかりすぎました」と森田。

「ある意味では、JALの企業文化が招いた結果かもしれません。安全運航は絶対であり、社会的責務であること、そして経営破綻(2010年)から再生の機会をいただき今がある中では、その中で培われてきた文化は変えるべきではなく、それはある意味『守り』といえる部分もあると思っています。

ただ、この『守り』の姿勢に加えて、これから新たな時代に対応するためには、新規的な取り組みをする企業と積極的につながる『攻め』の姿勢も持たなければなりません」


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「攻め」の姿勢を実現するためには社内に新たな仕組みが必要だと考え、CVCを立ち上げた。「Japan Airlines Innovation Fund」は約80億円の資本を元に10年間の運用期間で、国内外のスタートアップへの投資を開始する。案件発掘や投資実行、投資後の支援はシリコンバレーを本拠地とするベンチャーキャピタルのTransLink Capitalが行なっている。

各部門が個別に対応していた出資先候補となるスタートアップ企業の選定や、その妥当性評価について、一元的に行える体制を構築。CVCを立ち上げた今は、JALグループとしての各スタートアップ企業との接点を明確にしたうえで、話し合いを進められるまでになった。

「出資決定までのフローは、かなり整理できた。出資の決定はもちろんですが、『出資しない』というストップの判断を速やかに下すことも重要です」と森田。

スタートアップとともに事業を進めることで、近年は社内にもスピード感が出てきているという。最後に、今後の展望をこう話す。

「長期的には結果を出さなければならないのはもちろんですが、まずは弊社が目指すオープンイノベーションのあり方を示し、JALの『攻め』の姿勢を多くの人々に知ってもらうことが重要だと思っています。

オープンイノベーションは多くの人の協力があって初めて実現できる。MaaSが実現する時代に、『空のことならJALに相談しなければ』と思われる存在でありたいですね」

文=木上芙実子 人物写真=野口直希

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