キャリア・教育

2019.04.12 08:00

ごみ8割減の町にコスタリカ大統領や世界が注目。環境保護NPOの仕掛け人

NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー 坂野晶

2019年1月にスイスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)のダボス会議。安倍晋三首相ら世界の首脳が集まり、マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)や、そのほかの若手リーダーとともに共同議長を務めたのがNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーの坂野晶理事長だ。

同法人は、2003年に日本で初めて「2020年までにごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)を目指す」と宣言した徳島県上勝町で活動を始め、ごみ削減のための政策立案・実装や啓発活動などを行う。上勝町はすでに80%以上のごみ削減に成功。坂野は15年の就任以降、得意の英語を生かして精力的に広報・啓発活動を行い、世界各国から取材が相次ぐ。

ごみ分別の動画は100万回以上再生され、17年には「世界でグーグル検索された日本に関する単語の急上昇ランキング」で「kamikatsu」が10位に入った。

ダボス会議ではコスタリカの大統領とゼロ・ウェイスト活動の話で盛り上がったという坂野は、意外にも「人と関わることが嫌いだった」という。彼女を変えたきっかけと変わらないパッションとは。

──29歳という若さで世界のリーダーが集まる会議の共同議長をされました。

経済成長を追求する会議というイメージが強いダボス会議ですが、19年は持続可能性というテーマが全面に押し出されていました。持続可能性は経済的なリスクになっていて、いますぐ対応が必要です。これまでのCSR(企業の社会的責任)的な、企業で少しいいことをしようという発想ではなく、本業を循環型に変えていかないと資源が枯渇し、結局何十年先には企業はみな生き残れない、という危機感が共有されていました。

企業としては単純に効率的に資源を作るとか、リサイクルするではなくて、いかに新しい資源を取らずに、循環型でビジネスモデルを作れるかが、サバイバル戦略なんだというのが、印象的でした。

そういう意味では、ようやく私たちがやってきたゼロ・ウェイストの活動が、言葉は違うかもしれないけれど、共通の認識に近づいて来たというのは感じています。

──印象に残る出来事はありましたか?

コスタリカのカルロス・アルバラード・ケサーダ大統領との話が一番楽しかったです。彼はまだ30代という若さです。コスタリカは環境先進国として知られていて、化石燃料由来の発電をやめ、国内電力の100%近くが再生可能エネルギーという先進的な取り組みをしている国です。

一方で、大統領自身が「ごみの回収の仕組みやリサイクルはあまり進んでいない」と話していて、「ごみの問題について一緒に力を貸してくれないか」と言ってくれました。私たちのNPOは小さな地域でずっと活動してきた知見があるので、一緒にコスタリカにモデル地区をつくってごみ問題に取り組む仕組みを作り、各地に広めていけないかと話し合いました。

「ちょうどいい自治体がある」「JICA(国際協力機構)に加わってもらおう」など、話が盛り上がりました。これからどう進むかは分からないですが、こういった話をきっかけに物事が変わっていくのは楽しいです。

──理事長を務めるゼロ・ウェイストアカデミーの活動内容について教えてください。

NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーは、上勝町でゼロ・ウェイストの取り組みを実施していくこと、上勝町から世界に仲間を作ってゼロ・ウェイストを広げていくという2つのミッションでスタートしました。

上勝町内では、町内唯一のごみステーションの運営から始まり、住民へのごみ分別指導、リユース(再利用)の拠点立ち上げ、着物や鯉のぼりなどのリメイク(アップサイクル)商品制作の工房運営などです。さらに、町内の店に量り売りのコーナーを作ったり、レジ袋を断るとポイントが貯まるような仕組みを行政と一緒に作ったり、ごみを出さないようにする仕組み作りもしています。

町外への普及啓発活動としては、国際会議での発言や、地域向けのセミナーの実施、子供向けの環境教育のためのカードゲームの開発もしています。カードゲームは、身近なごみを減らすために自ら楽しく考えてもらえるような仕組みです。

普及啓発や地域での活動では減らせるごみには限界があります。上勝町ではリサイクル率が80%以上になっていますが、残りの20%弱はそもそもの製品の設計や素材が変わらないとリサイクルもできません。大半のものが使い捨て前提で作られており、それが変わらないとごみは減りません。

そこで、企業との協力も始めました。店舗など事業所向けのゼロ・ウェイスト認証制度も運用しています。仕入れを工夫するなどしてゼロ・ウェイストに取り組む店を支援し、国内外に活動を発信しています。

小売店が量り売りにするのは非常にハードルが高いのですが、飲食店で自分たちが使う食材を一部、量り売りで提供する、というモデルであれば、在庫ロスのリスクが下がります。私はそういう少し工夫したモデルで、全部の解決策にはならなくても、波及効果がある企画をしてきました。認証店は2019年4月現在、上勝町で7店舗、町外で3店舗。飲食店を対象に少しずつ広めています。4月にはアパレル店舗向けのゼロ・ウェイスト認証をローンチする予定です。
次ページ > 実は「人と関わるのが嫌い」だった

構成=成相通子 イラストレーション=Luke Waller

タグ:

連載

セルフメイドウーマン

ForbesBrandVoice

人気記事