英コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスは今年に入って発表した報告書で、「ドバイ・ショックから10年が経った今も、債務問題は解決していない」と指摘した。実際には、問題は始まったばかりなのかもしれない。
ロイターの2014年3月の報道によれば、国際金融危機が発生したおよそ10年前、深刻な状況に陥ったドバイは巨額の金融支援を必要とし、それを救済したのはアブダビ国立銀行とUAE中央銀行だった。
この救済措置は、ドバイの政府系企業(GRE)の一部が債務不履行に陥り始めたと不安を募らせていた投資家たちを落ち着かせるためのものだった。投資家たちは、GREの債務は全てドバイが保証するものだと考えていた。つまり、投資家たちは仮にGREが破綻しても、投資した資金はドバイ政府から取り戻すことができるとみていたのだ。
だが、残念ながらこの救済措置によって、ドバイの問題が解消されたわけではない。報告書によると、「ドバイのGREが抱える債務は、同首長国の国内総生産(GDP)の50%に当たる600億ドル(約6兆7150億円)に達している」。
さらに、「このうちのおよそ半分が、向こう3年以内に返済期限を迎える」という。言い換えれば、GREの手元には、36カ月後までに支払期日を迎える総額およそ300億ドルの請求書があるということだ。状況は今後、悪化する危険性がある。
原油価格下落の影響
ドバイは過去数十年間、石油依存から抜け出し、経済を多様化させるための努力をしてきた。それにもかかわらず、湾岸地域は今も、全体としては原油収入に依存している。
5年前から続く原油価格の下落は、政府系・民間を問わず、湾岸諸国の企業を圧迫してきた。ブルームバーグのデータによれば、欧州で原油価格のベンチマークとなっているブレント原油の価格は、2014年半ばには1バレル当たり100ドルを超えていたものの、今年2月中旬以降は65ドル前後となっている。
世界的な貿易の減速も、ドバイには悪材料だ。シンガポールや香港がそうしてきたのと同様に、ドバイは湾岸地域の貿易の中心地としての自らの地位を確立。それによる恩恵を受けてきた。
だが、このところ各国で台頭する保護主義と貿易の縮小傾向は、ドバイにとっては自国企業が苦境に立たされることを意味する。さらに、市況が軟化すれば、GREが債務の返済能力を失うことにつながるだろう。GREが債務の返済や借り換えに苦しむ状況に陥れば、再び政府が救済することになるかもしれない。
ドバイの証券取引所ではすでに、投資家が将来に不安を持ち始めている兆しが見られる。ブルームバーグによると、ドバイ金融市場に上場している銘柄で構成されるドバイ金融市場総合指数は、ここ5年で約50%下落している。2014年5月には5302ポイントだったが、今年2月には2500ポイントを下回った。
報告書はさらに、「湾岸地域全体の成長の鈍化、そして2020年に開催される国際博覧会(万博)の閉幕後に予想される過剰設備のリスクは、GREの売上高が予想以上に減少する可能性があることを示している。そうなれば、各社の債務返済能力も損なわれることになる」と述べている。
つまり、ドバイ経済を助けることになる何らかの変化が起きない限り、債務問題がこの都市を「沈没」させる可能性があるということだ。