米最低賃金引き上げの「負の側面」、今後の景気後退で明らかに

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米国が次に景気後退期(リセッション)に入り、多くの中小企業が倒産の危機に瀕するようになったとき、最低賃金の引き上げはその「醜い側面」をあらわにするだろう──つまり、多くの労働者が職を失うだろうということだ。

米国ではこのところ、最低賃金の引き上げを巡る動きが最高潮に達しており、いくつもの都市や州が、競い合うように最低賃金を時給15ドル(約1640円)に引き上げている。

オハイオやニュージャージーなど、最低賃金を生活費と同水準にすることを定めている州もある。また、「生活賃金(最低限の生活の維持に必要な賃金)」を定めた法律に従い、最低賃金を引き上げている州もある。

例えばニューヨーク州では、法律によりニューヨーク市の最低賃金が昨年末までに時給15ドルに変更された。また、ワシントンDCでは2020年7月までに、最低賃金を15ドルとすることを定めた法律が施行されている。今年1月1日から州内の最低賃金を引き上げた州は、およそ20に上っている。

政治の「介入」は悪影響

最低賃金の引き上げを急ぐ理由は、いくつかある。その一つが政治的なアピールだ。最低賃金で働く数多くの労働者を大切にしていると思わせたい政治家たちは、そのための法律を作ってきた。問題は、そうした政治家たちは景気の波に乗れないことにある。

好調な経済は、最低賃金で働く労働者を「少ないリソース」にする。そして、賃金はそうしたリソースを求める企業の競争が激化することによって上昇するものだ。

また、好況であることは、企業がより多く利益を得ていることを意味するものでもある。企業により高額の賃金の支払いを可能にするのは、法律ではなくそうした市場の状況だ。それは、2017年には最低賃金で働く米国人が比較的少なくなり、労働力全体の1.8%にとどまっていたことからも説明がつく。

次に景気後退期が訪れたときには、何が起きるだろうか?企業は経済が好調なときほど多くの労働力を必要としなくなり、市場原理ではなく法律によって決められた賃金を支払うことができなくなるだろう。

大企業ほどクレジット市場へのアクセスを持たない中小企業にとっては、特に影響が大きくなる。中には倒産に追い込まれるものも出てくるだろう。例えば2008〜09年の景気後退期には、米国の四半期当たりの倒産件数は、最大6000件にまで急増した。

こうした状況がもたらすのは、何百万もの低所得の労働者が職を失い、福祉制度に頼るようになることだ。新たな職に就く機会も失われることになるだろう。

信用保険会社ユーラーヘルメスのチーフエコノミストは、限定的なデータに基づくものだとしながらも、「過去の2回の景気後退期には労働者数が減少する一方で、最低賃金で働く労働者が急増した」と指摘している。「1981〜82年のリセッションでは、最低賃金で働く人が労働力全体に占める割合は15.1%に達した」という。

経済が好調なときに法律で最低賃金の引き上げを義務付けることは結局、次のリセッションが訪れたとき、助けようとしたはずのものを苦しめることになるだろう。

編集=木内涼子

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