今回、AIを使って不衛生な飲食店の取締りに乗り出したのは浙江省・紹興市だ。同市では管轄区域内にある飲食店の厨房が汚いという市民の相談が相次いでいたため、AIプログラムを設置することにしたという。
同プログラムは監視カメラで厨房を撮影し、調理スタッフが喫煙をしたり、手を洗わずに調理を行ったり、はたまた消毒を怠るなど不衛生な行動を取った場合、AIシステムがそれを察知し、携帯電話やスマートフォンに警告を送るという仕組みだ。
紹興市は既に、管轄区域にある87の飲食店に同プログラムを実験的に設置。今後、年間1000人以上の来客がある飲食店に設置を義務付けていく方針を掲げている。
中国では、飲食店が衛生問題を発端に最新テクノロジーを導入するケースがしばしある。例えば、ネズミの出没などで不衛生問題を指摘されてきた中国の火鍋チェーン「HaiDiLao(海底撈)」は、昨年10月、北京にAIシステムおよびロボットを導入した店舗をオープン。それら自動化の最終目的にコスト低減があることはもちろんだが、同時に衛生環境の向上を狙っている点がとても興味深い。
飲食業の競争が激しい日本でも、2018年6月に食品衛生法が改正されたという経緯も手伝って、今後、衛生管理は各飲食店の競争力を左右する差別化ポイントになっていくとの予測がある。「おいしい」「安い」「健康に良い」「オシャレ」などの条件は人気店に必須だが、「衛生管理が行き届いている」という尺度が、店選びの基準のひとつとして追及されるシーンが増えるという指摘である。
とはいえ、これまで飲食店の衛生問題はなかなか「可視化」されてこなかった一面がある。もちろんニオイがするなど極端な場合は除くが、不衛生な環境や行動が“隠蔽”される場合があるし、逆に店主やスタッフが丁寧に気を使っていたとしても消費者や外部から気づかれにくい場合もあった。
店舗スタッフの働きや店内の状況を把握・分析できる人工知能が普及していけば、これまで確認することができなかった衛生管理状況を可視化できる可能性が生まれる。把握・分析された衛生管理に関する良い結果をアピールすることができれば、店舗にとって衛生管理はコストではなく“武器”になる。一方、消費者にとっては安全・安心を担保する指標となっていくはずだ。
人工知能は、すでに原料や食品加工の生産現場で食の安全を見守る用途で利用されているが、それらが料理としてふるまわれる飲食店においてどのような役割を果たしていくかのか、新たなユースケースの増加に注目していきたい。
連載 : AI通信「こんなとこにも人工知能」
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