経済・社会

2018.12.26 06:30

ケリー被告保釈、夫人の嘆願で広がるアメリカでの日本検察への非難

カルロス・ゴーン(Photo by Christophe Morin/IP3/Getty Images)

カルロス・ゴーン(Photo by Christophe Morin/IP3/Getty Images)

日産のカルロス・ゴーン前会長とともに勾留されてきたグレッグ・ケリー前代表取締役が保釈された。

アメリカのメディアは、情報を出さない東京地検や日産にフラストレーションをためながら、詳しい記事を書けずにいたが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、ケリー前代表取締役の夫人、ドナ・ケリーさんが保釈嘆願のビデオを流すと状況は一変した。アメリカでは、日本の司法の前時代的で非人権的な拘留であると、かなり批判が高まっている。

ドナ夫人は、ケリー前代表取締役が厳しい腰痛と脊髄の病気を抱えていて手術直前のところを、日産に「どうしてもビデオ会議ではダメな、参加が必須な会議があるから」と騙されて飛行機に乗せられ、日本に着いたところを逮捕されたと、怒りを見せる。常備薬も飲ませてもらえず、このままだと著しい障害を抱えかねないと、涙ながらに保釈を訴えた。

ニューヨーク・タイムズも批判

原文ではクリスマスまであと10日あまりとの言葉があったことから(つまりリリースの5日も前)、WSJが出すタイミングを計っていたことや、あるいは編集に時間をかけたことを伺わせる。発言は、事件のことについては無罪で、あくまで西川社長の仕組んだ罠だと断じただけで、5分ほどの嘆願ビデオのほとんどは、日本の検察=勾留制度への厳しい批判になっている。

ドナ夫人自身も、クスリを持って東京に飛びたいのに、日本の事情をよく知る人間から、「今、あなたが日本に行けば、あなたも逮捕される」と警告されているので、自宅のナッシュビルにとどまっているとの発言さえ、動画の中にはある。病人のための特別な枕も禁止され、家族との手紙にも検閲が入るのはひどいと続く。これはYoutubeでいまも見られる。

ニューヨーク・タイムズは、19日、ケリー容疑者の病状を報道しながら、それでも保釈をしないのは、勾留中に自白をとるための日本流のやり方であると批判している。アメリカの企業弁護に詳しいステファン・ギブンズ弁護士の発言を引用して、こういうことでは外国人企業人は、いつ次は自分の家の扉を、日本の警察に叩かれるかと恐怖で夜も眠れないはずと、まるで戦前の日本の特高警察に重ね合わせるような感情的コメントを載せている。

一方、日本の司法システムも改革の真っ最中だ。裁判員制度を筆頭に、取り調べに録音・録画が義務付けられたり、重罪には公判前整理手続が取り入れられたり、弁護人にも検察の保有する資料が事前に見られるようにしたりするなどして、裁判の迅速化や公平性への配慮が進んでいる。今年は、とうとう司法取引も始まった。

しかし、それでも自白が公判で重んじられる現在の裁判の態様は変わっておらず、自白をとるために検察が必死であり、そのために勾留期間が続くという仕組みには改革も手が付けられていない。過去には、鈴木宗男元衆議院議員が、437日の長期にわたり勾留されたこともあった。鈴木氏の著書「汚名 国家に人生を奪われた男の告白」を読むと、これが21世紀の出来事かと目を疑う。
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文=長野慶太

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