このようにテック系イノベーション人材を多数輩出できる裏側には、イスラエル国防軍(IDF)の技術開発人材育成プログラム、「タルピオット」の存在があります。
11月、タルピオットを修了後、チーフインストラクター兼副司令官としてプログラムを統括していたトメール・シュスマン博士が来日し、文科省主催の講演会やセッションに登壇。今回は、それらに参加し、また博士と個別に言葉を交えたことで見えてきた、「イノベーション人材育成」に不可欠な3要素について取り上げてみたいと思います。
トメール・シュスマン博士(筆者撮影)
その3つとは、まず、プログラム自体だけでなく、フォローアップにも投資すること。そして、思考のベースとなる基礎知識を重視しつつ、ハンズオンのプロジェクトを実施すること。もう一つが、自分を適正に評価することや精神的な強さなど人間的な成長を促すことです。
エリート育成プログラム「タルピオット」とは
タルピオットは、毎年義務教育(5~18歳)を修了する予定で予備審査をした学生約1万人の中から、科学技術、リーダーシップ、イノベーティブな思考に秀でた学生を50~60人選抜。イスラエルがサイエンスの基礎と考える数学・物理・情報科学の3つの領域を学び、3年間で2つの学位を取得するもので、同時に、軍事技術開発プロジェクトを経験し、プロジェクト・マネジメントやリーダーシップスキルなどを養う、科学技術系エリート育成プログラムです。
タルピオット卒業後には6年間の兵役が義務付けられていますが、その後のキャリアは自由で、軍に残る人、アカデミックに進む人、起業する人など、進路は様々です。この卒業生たちが、ライドシェアサービスのViaやマイクロソフトが買収して注目されたクラウドセキュリティ会社のAdallomなど、多数のテック・ベンチャーを創業しています。
修了後のキャリア作りにもリソースを投入
タルピオット創設の背景には、天然資源を持たず、周囲を対立国に囲まれたイスラエルの成長には人材への投資が欠かせないという、初代首相ダヴィド・ベン=グリオンの考えがあります。
その投資の真剣さは、タルピオットへの投資額とフォロー期間の長さに現れています。タルピオットでは、3年間で1人あたり約50万ドルを投資。そして、プログラム期間中はもちろん、卒業生が自身の能力を最大限に活かして活躍できるように、約10年間フォローアップをしています。
どんなスキルを身につければいいか、どんなポジションであれば自分をもっと活かせるかなど、卒業後もメンターからのアドバイスを受けることができるのは、キャリアの初期のステージである20代の人材育成においてとても重要なこと。卒業生のネットワークも緊密で、お互い支援しあうこともよくあるそうです。
筆者が在籍していたボストン・コンサルティング・グループやGEなどの企業でも、卒業生ネットワークは濃密です。特にGE時代の選抜プログラム出身者のネットワークは非常に濃いもので、たとえ違う会社に在籍していてもお互いのビジネスのために助け合うほど。軍事演習もある厳しい環境をともに過ごしたタルピオット生のつながりはそれ以上だろうと、容易に想像できます。