「黒幕はデザイナーたち」と題した前回の記事では、「国のブランディング」を手がけるエストニアの政府機関、Brand Estoniaの創設に至った経緯を紹介した。
今回は、より深いレベルでその戦略を探るべく、Brand Estoniaのオフィスを訪れてインタビューを敢行。「電子国家」としてのブランドを世界中に定着させたデザイナーたちの素顔に迫る。
前大統領も巻き込んだ「国のブランディング」計画
既に温度計の目盛りが0度を下回る10月下旬のエストニアの首都・タリン。Brand Estoniaが所属する政府機関「Enterprise Estonia」のオフィスを訪れると、デザインチームのトップを務めるアラリ、アートディレクターのヤーン、そしてブランドマネージャーのリーシが出迎えてくれた。
この中で政府職員はリーシのみで、アラリ、ヤーンを含むデザイナー約10名は、プロジェクト毎に契約を結ぶ業務委託形式で勤務している。年間20万ユーロ(約2600万円)の予算の中で、政府職員3名の人件費を含む全てのコストを賄っている形だ。
同国の賃金水準が日本の約半分であることを差し引いても、その予算は決して潤沢であるとは言えないだろう。コンパクトながらも、官民が連携して確かな実績を残しているエストニアのブランディング戦略だが、意外にもここまでの道のりは泥臭いものだったという。
「Brand Estoniaの発足当時は、エストニアのブランドコンセプトは複数あり、そのことがエストニアブランドの浸透を妨げていたんだ」とヤーン。そのため、彼らにとっての最初のミッションは、ロゴなどの目に見えるアウトプットの制作ではなく、ブランドの核となるコンセプトやストーリーの確立に注力したという。
「グローバルで活躍するエストニア人約30名を対象に、時間をかけてインタビューを実施したんだ。その中には前大統領もいたんだよ」とアラリは当時の活動を振り返る。こうして、国際的なエストニア人たちが対外的に発信しているメッセージを抽出した彼らだったが、最も大変だった過程はそれらを3つのコアメッセージに絞り込む過程だったという。
「対象が『国』ということもあって様々や要素が複雑に絡み合っていた。しかし『エストニアブランド』として発信するためには難解なものであってはならない。20年、30年先の未来をイメージしながら、様々な要素を削ぎ落として抽出したものが、現在の3つのコアメッセージなんだ」(アラリ)
チーム内で度重なるワークショップを実施し、こうして「Independent minds」「Clean environment」「Digital society」という彼らの活動の核となるメッセージが生まれた。