ビジネス

2018.12.17 12:00

動き出した「GovTech」 行政とテクノロジーの正しい掛け算


最新テクノロジーを使ったアプリは、大手のITベンダーから、しばしば自治体に提案がある。確かにパッケージとしての完成度は高く、説得力もある。ところが、それらを導入するには、予算を確保して発注することになるので、自治体の職員にこれをやってくださいという契約にはなりにくい。

長田区の事例は、逆に行政側が解決したい課題を提案し、それに応じたスタートアップをマッチングする「Urban Innovation KOBE」という仕組みを活用している。2016年にサンフランシスコ市で導入された同様のプログラムをモデルに、国内では神戸市が初めて導入した。

市職員とスタートアップの「架け橋」

実は、昨年、市職員とスタートアップの共同開発を試行したが、成功には至らなかった。その理由に、市職員とスタートアップを束ねるプロジェクトマネージャーが不在であったことが指摘できる。

市職員とスタートアップは対極にある。ダークスーツとTシャツ。電話とSNS。専守防衛と先制攻撃。仕事のやり方や価値観が異なる両者が一緒に仕事をするには、誰かがその間に立って正しく導く必要がある。しかし、民間コンサルが間に立ってアドバイスをしても、あくまで外部からの意見であり、市職員は不信感を募らせるだけだった。

そこで、神戸市が選んだ作戦は、民間企業でのIT関連の業務経験があり、フルタイム職員として採用した、2人の「ITイノベーション専門官」のプロジェクトマネージャーへの抜擢である。彼らは既にITビジネスでプロジェクトマネジメントの経験を持っており、目の前のスタートアップの持つテクノロジーを客観的に見定められる。さらに、職員名簿に名前があるので、市職員からは味方と認識される。


ITイノベーション専門官の吉永隆之(左)と中沢 久(右)

今月4日、神戸市の久元喜造市長は記者会見で、前述の子育てイベントだけでなく、レセプト(診療報酬明細書)チェックにもRPA(Robotic Process Automation)を導入して年間450時間の作業量の削減につながったこと、区役所窓口への訪問者への案内時間をタブレットアプリで半減したことを発表した。

このようなスタートアップと市職員による共同開発には、全国の自治体や議会からの視察が相次いでいる。そこで神戸市は、来年2月に、経済産業省や他の自治体と連携し、得られたノウハウを共有するイベントを、東京・大手町で開催することを決めた。

まもなく訪れる2019年は、日本における「ガブテック」元年になるのではないかと思う。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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