ビジネス

2018.12.14 16:30

所有ではなく共有へ 日本が目指すべき未来社会の姿とは?


変化する財の価値

最近、私が注目しているのはお金の概念です。仮想通貨やブロックチェーンなどが生まれたことで、実質的な金銭の移動がなくなり、第三者機関のクレジット会社や銀行などが必要なく、お金を取引上で動かさない独自のシステムができました。これからも換金できるもの以外にいろいろなお金の価値が、コミュニティの中で出てくると思います。

Society5.0に向かっているけれど、意外と狩猟社会(同1.0)や農耕社会(同2.0)の頃に戻ってしまうかもしれません。中間業者がいない社会では、米と他の作物を物々交換をすることがあるかもしれません。

現在の情報社会(同4.0)は経済を中心に回しています。Society5.0では、経済、環境、社会を繋いで回す仕組みを作ろうとしています。国連の提唱するSDGsにも繋がる話です。そういう社会では、お金という概念だけでは言い尽くせないことが出てきます。

これまでは財を使って社会や経済を回していました。未来では単なる資産の所有ではなく「ギフト」(感謝)の共有が生まれるでしょう。例えば環境に対して感謝の気持ちを表す仮想通貨などがあれば、価値が見直せると思います。情報技術やAIがそれらをサポートします。情報や産業の世界だけでなく、もっと人、社会、環境のために使われていきます。

お金の概念が変化することで、場所の概念にも縛られることがなくなります。ネットワークで繋がり自宅でも外でもオフィスでも仕事ができれば、働き方も固定化せず、流動化します。オフィスは将来的にはなくなるかもしれません。会社ベースの仕事ではなく、プロダクトやチームベースでの仕事が増えていきます。いまは人が東京に集中していますが、本来ならば暮らしやすさの観点の価値は下がるはず。

それでもいまは中央集権的な価値観でお金が集まるから人も集まってくる。Society5.0ではその価値が分散されていくと思います。地方の価値が見直されるでしょう。「誰一人取り残さない」。これはSDGsの理念ですが、これからはみんなの幸せが中心になる社会になっていくのではないでしょうか。

すでに私たちは「シェア文化」を始めています。例えばフェイスブックはコンテンツを持っていないのに人気なメディアで、エアビーアンドビーは不動産を所有していないけれど宿泊先を提供しています。

未来は所有するのではなく、共有することが中心になっていきます。お金に執着する必要もなくなるでしょう。問題は人がこの文化に対応できるかどうか。既得権益に頼ってきた人が受け入れられるかどうか。みなさんはどちらの世界が良いですか。


中沢 実◎金沢工業大学教授、大学院工学研究科情報工学専攻主任。2018年4月、学内に開設した「AIラボ」所長に就任。今春、金沢工業大は先端技術を駆使して地方創生を進める「白山麓キャンパス」を開設。地元企業や東京の専門団体と協力し、ドローンを制作し小口輸送の実験などに取り組む。

文=中沢 実

この記事は 「Forbes JAPAN 新しい現実」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事