また、アメリカ元代表で弁護士のクリス・ヤング氏も筑波大学に1年間留学し、世界大会の前は日本の警視庁で稽古までしていたという。アメリカ代表選手は、仕事を辞めてまで剣道に没頭していたというから驚きだ。
この他、大学教授やNGO職員、会社経営者といった職業の剣士もいる。毎年8月に開催される筑波大学の鍋山隆弘先生(教士八段)の稽古には200人前後の剣士が集まるが、3日間で100ユーロ(約13000円)の参加費と航空券代・宿泊費を含めると決して安価ではない。
毎年オランダで開催される剣道サマーセミナー(Photo by KENDOFAM)
とらわれない心、あるがままの心を養う
『日本剣道の歴史』(スキージャーナル社刊)によると、欧州で武道を学びたい人を対象とした調査では、精神性への関心が非常に高かったそうだ。ちなみに、剣道は歴史的に禅と非常に関わりが深い。海外で禅を学んでいた人が先生に勧められて剣道を始めたというケースもある。
禅は、「とらわれない心、あるがままの心」を実践し修行する宗教だ。
剣道の精神性には2つの要素がある。1つは、相手と対峙した時の己の心の持ち方だ。そしてもう1つは、倫理・道徳的な要素。日本では、かつて戦いを生業とした武士が為政者でもあった。武士は人格が重視され、武の技術を修行する中で人格を養っていこうとしたのだ。
さらに近代以降は、理想の武士像を日本人一般にまで拡大し”あるべき日本人像”を作ってきた歴史がある。このため、剣道の教えに自然とシンパシーを感じる人も多いように感じる。
日本でも経営者で武道を嗜む人は少なくない。また、大人になってから「自分の心の弱さと向き合うため」剣道を始める人もいるほどだ。
相手を尊重し、弛まぬ努力をする心
私はこの記事で「日本はすごい」「私たち日本人は素晴らしい」といったことを言いたいわけではない。
とても地味で華やかさには欠けるかもしれないが、相手を尊重する”礼”の精神や、諦めずにコツコツと努力する精神が、海外の人にも受け入れられて、実践されていることをお伝えしたい。
日本古来の文化には、非効率なものや変えていかなければいけないことも数多くある。しかし、私はこの相手を思い遣る”礼”の精神や、謙虚さ・努力を奨励する文化は本当に素敵だと思っている。暗いニュースが多いなかで、本記事が日本人の良さを再発見するようなきっかけになれば、とても嬉しく思う。