サンドラ・ブロック主演ネットフリックス映画が描く世界の終わり

サンドラ・ブロック(Photo by Andreas Rentz / Getty Images for Netflix)

サンドラ・ブロック(Photo by Andreas Rentz / Getty Images for Netflix)

サンドラ・ブロック主演のネットフリックスオリジナル映画「バード・ボックス」が、12月21日の配信と同時に劇場公開されることになった(日本は配信のみ)。ジョシュ・マラーマンによる2014年のSF小説をもとにした同作は、「メッセージ」のエリック・ハイセラーが脚本、「未来を生きる君たちへ」のスサンヌ・ビアが監督を務める。

ネットフリックスが劇場公開に踏み切ったのは、映画賞レースに参戦するためか、あるいは著名な映画監督や俳優をネットフリックスに呼び込むためだと思われるが、今後の同社の配信/劇場公開の方針を決定づけるテストケースになりそうだ。

映画の内容はというと、緊迫感あふれるサバイバルドラマであり、人間の内面をえぐる作品だ。舞台は、人類を死に追いやる謎の生命体が猛威を振るう近未来。人々はその生命体の姿を見ると自殺してしまうため、屋内に閉じこもって暮らしている。ブロック演じる主人公マロリーは2児の母親で、映画は彼女が子どもたちにサバイバルのルールを厳しく教え込んでいるシーンで幕を開ける。彼女らはこれから安全な場所を目指し、家を出ようとしているのだ。

そこから映画は過去に遡り、予期せぬ妊娠をしたマロリーとその姉妹ジェシカ(サラ・ポールソン)の、心あたたまる場面が描かれる。しかし、幸せな時間は続かず、マロリーは疲れ果てた大勢の避難者とともに一軒家で過ごすことに。ジョン・マルコヴィッチ、トレヴァンテ・ローズ、ローサ・サラザール、B・D・ウォン、ダニエル・マクドナルド、リル・レル・ハウリーらが演じる避難者たちの中には、マロリーと同じ妊婦もおり、彼らは外の状況を見ることが叶わない状態で生き残りの方法について言い争う。この過去と、目隠しをして小舟でどこかへ向かう現在のマロリー親子の姿を交互に描きながら、物語は進んでいく。

生命体の姿は画面に映らず、登場人物と同様に観客も一体何が起きているのかわらない。生命体が人々を襲う目的も不明である。明らかなのは、世界が滅亡に向かっているということだけだ(最近流行りの終末観)。根拠がはっきりしていない映画ほど怖いものはない。

人間は一体、何のために生きるのか?

自殺する人々のモチーフはM・ナイト・シャラマン監督の「ハプニング」を、親子のサバイバルの旅はジョン・ヒルコート監督の「ザ・ロード」を、そして見ないことで生き延びる設定は、音を立てないことで生き延びるジョン・クラシンスキー監督の「クワイエット・プレイス」を彷彿とさせる(マラーマンは「ハプニング」よりも前に小説を構想していたと主張)。

世界の終わりを描いた類似作品が数多くある中で、本作の見どころはサンドラ・ブロックのいつもながらに素晴らしい演技と、終末世界で人は何のために生きるのかという問いかけだ。特に映画の後半では、一瞬の気のゆるみが命取りになる極限状況で、母から子へ愛情と尊重の念がどれだけ伝わるのかという母性をめぐるテーマが展開する。

物語が中盤で失速するペース配分のまずさや、ここで終わると見せかけて終わらない展開が「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」以上に何度も続く点など短所もあるものの、豪華キャストの演技のおかげでありきたりなサバイバルドラマにはなっていない良作ホラーである。大手スタジオが製作し、通常の劇場公開がされていたとしても、ある程度の興行収入を上げていたと思われる。

編集=海田恭子

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