現状、米国の主要都市におけるオフィススペースの価値は、人材や公共交通へのアクセスの良さに比例して高くなっている。しかし、レポートによると自動運転の普及で通勤が快適になれば、長距離通勤を気にしない人が増え、従来の土地の概念が大きく変わる可能性があるという。
推計では、2030年までにクルマでの通勤の走行距離の少なくとも11%が自動運転に置き換わるという。また、テクノロジーの普及が速く進めば27%以上になるという。
「不動産業界では、昔から何よりもまず立地条件が重視されてきた。しかし、将来的に車での移動が快適になれば、より遠くまで通勤しても良いと考える人が増えるだろう。5Gの普及で車内の娯楽も充実する」とCBRE でデジタル・イネーブルメントとテクノロジー部門のシニアバイスプレジデントを務めるDavid Eisenbergは話す。
建築事務所「Gensler」によると、今後建設予定のオフィスビルは、駐車スペースを縮小してオフィスや小売りスペースに転換できるようにしたり、車の乗降場を広くするなど、自動運転車の普及を見据えたデザインになっているという。将来的に自動車シェアリングやEVが増えれば、路上の駐車スペースや一等地にあるガソリンスタンドを再利用するケースが増えるかもしれない。しかし、そうなるにはまず自動運転車が普及しなければならない。
「グーグル・セルフドライビングカープロジェクト」を前身とするウェイモは、他社に先がけてロボットタクシーの商用化を実現しようとしているが、その道のりは長いものになると同社は述べている。
アルファベットのCFO、Ruth Poratは10月25日に行った四半期の決算発表でウェイモがアリゾナ州チャンドラーで商用化の初期段階に突入したことを明らかにした。しかし、ウェイモのジョン・クラフチックCEOは7月に行われた全米知事会議で「自動運転車が普及するには思った以上に時間がかかる」と述べている。
長距離通勤で「トイレ問題」が課題に
ゼネラルモーターズは、傘下の自動運転企業「クルーズ(Cruise )」が2019年にロボットタクシーによるサービスを開始するとしている。一方、フォードやトヨタなどは2020年以降に同様のサービスを立ち上げる予定だ。
自動運転の普及には、法の整備やテクノロジーの信頼性向上などの課題がある。しかし、これらの障壁が解消されれば、従来は交通の便が悪かったり、人材確保に難があった場所でもオフィススペースの開発が進むとレポートは予測している。
「公共交通へのアクセスの良さで、オフィスの価値にプレミアムが付いている場合、将来的にはそのプレミアムは失われると考えた方が良い。自動運転車の普及により、現在は立地条件が悪くても将来的に多くの通勤者が見込める土地にプレミアムが付くだろう」とEisenbergは述べた。
ロボットが人間の代わりに運転をしてくれることで、長距離の移動も苦痛でなくなるだろう。しかし、通勤時間が長くなることで、次はトイレ問題を解決する必要が出てくるかもしれない。