ところで、同業者からは、「他人事みたいでいい気なものだ」と言われそうな話だが、この悩ましい制約から「自由」で、かつおおらかなのが極東ロシアである。
ロシアはEU加盟国ではないからだが、モスクワやサンクトペテルブルクなどのヨーロッパ寄りの地域の事情は詳しくないので、あくまで以下に記すのは、日本からフライト2時間圏内の話として聞いていただきたい。
以前、極東ロシアのウラジオストクがフォトジェニックな町であること、その理由は「港町」「ユニークな歴史ゆえの建築の美しさ」「レトロな乗り物やキリル文字などロシア風のデザイン」に加え、「この町に暮らす人たちが魅力的な被写体」であることを述べた。
(左)ウラジオストクの目抜き通りを闊歩する若者3人組、(右)結婚記念写真の撮影中、横からカメラを向けると応じてくれた
実際、極東ロシアの人たちは、ここ数年こそ中国や韓国から大量のツーリストが訪れているが、ほんの最近まで外国人慣れしていないところがあった。なかでもウラジオストクは、ソ連崩壊までの長い間、外国人のみならず同じロシア人ですら訪問が禁じられていた閉鎖都市だった。
だからこそ、いまこの町はツーリストと住民の蜜月関係の時代にあるといっていい。とりわけ、日本人に対して特別な親近感と好奇心を持って接してくれるところがうれしい。
なぜそうなるのかは、たとえば、市場や土産物屋で中国の人たちなどが買い物する光景を見ているとわかる。彼らは団体で押し寄せ、次から次へ大量に買い物していくのだが、それはただの商取引にすぎないように見える。
一方、日本人の場合、買い物自体が目的というより、市場や店の売り子とのふれあいを楽しんでいるようなところがあり、こうした新鮮な関係性はロシアの人たちからみても好感が持てるのではないか。
ロシア人は明朗会計を好むようで、市場や商店では細かく値札が表示される。ただし、中央アジア系や中国人の商店はこの限りではなさそう
実際、ウラジオストクではバスや路面電車で隣に座る乗客もそうだが、カフェやバーに足を運ぶと、インテリ風の市民やおしゃれな若者たちがいて、日本人の目からみると、彼らは総じてフォトジェニックである。なかでも興味深いのは市場である。なぜなら、多民族社会である極東ロシアの実相が強く感じられるからだ。
たとえば、ナッツやドライフルーツなどを売っているのは中央アジアの人たちだ。キムチや山菜の惣菜などを売るのは朝鮮系の人たちなどで、品目によって売り手の人たちの民族が違う。そのうえ、彼らにカメラを向けると、たいてい断られることはない。むしろ自分なりにポージングを決めて、精一杯サービス精神を発揮してくれるのだ。
今日のEUの事情を思うと、ここはなんて「自由」なんだと感じざるを得ない。もちろん、極東ロシアでもいつまでもこんな状況が続くとは限らない。だから、なおさら、いまが行きどきだと思うのである。
連載 : ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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