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国境は知っている! 〜ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル

高台の上に立つロシア正教のパクロフスキー教会

日本を中心にフライト2時間圏内の同心円を描いたとき、ウラジオストクはそのなかでも最上位にランクされるフォトジェニックな町といえるのではないだろうか。なぜ、そう言えるのか。次の4つの理由が考えられる。

第一に、港町であること。ウラジオストク港の深い入り江はホーン(角)の形のように屈曲しており、イスタンブールの金角湾に似ていることから、19世紀に同じ「金角湾」と名付けられた。

山が港のすぐそばまで迫り、坂道が多い。中央広場に建つ旧ソ連時代の政府庁舎を除けば、無粋な高層建築はほとんど建っていないので、町の通りのどこからでもたいてい海が見える。

高台に上ると、遠くの島並みまで見渡せるが、とりわけ日没直前に空がいったん赤く染まり、その後濃いブルーへと変わっていくマジックアワーの時間帯に立ち会う、鷲の巣展望台からの「絶景」は、この町を訪れた人なら誰もが足を運ぶスポットだろう。


鷲の巣展望台から金角湾を望む昼間の風景

海岸沿いを歩いても、2012年にできた金角湾大橋の現代的なV字型シルエットが港町の景観にリズムを与えている。

19世紀の優雅な雰囲気が残る

第二の理由は、建築が持つユニークな歴史性だ。この町が建設されたのは、北京条約によって沿海地方が帝政ロシアの領土となった1860年。当時はシベリア横断鉄道も接続されていないので、はるか欧州から海路で資材を運び、アールヌーヴォーなど当時のトレンド建築が極東の果てに持ち込まれた。

目抜き通りであるスヴェトランスカヤ通り沿いには、20世紀初頭に建てられたレンガ造りの建物が並ぶ。なかでも1885年建造のグム百貨店は現存する市内最古の建築といわれる。

モスクワにあるシベリア横断鉄道終着駅のヤロスラフスキー駅を模して造られたウラジオストク駅も必見だ。この100年駅舎の特徴は、古代ロシアの木造伝統住宅を連想させる屋根のデザインや弓形の円柱で支える優美なフォルムに加え、壁面の至る場所にロシア民謡を描いたタイル細工のレリーフがはめ込まれていることだ。

さらに、街中にいくつも建つロシア正教会のたまねぎ屋根のシルエットは、おとぎ話の世界に入り込んだような不思議な印象を与えてくれる。ミサの時間に聖堂内を訪れると、壁面にぎっしり並べられたイコンや聖人画の迫力に圧倒されるだろう。


ロシア正教で行われるミサの厳かな光景

聖堂内で歌われる生声の賛美歌と、聖職者によって振りまかれるお香と、信者たちが点す無数のロウソクの火が揺れる様が織り成す三つ巴の体験は、日本の日常では味わえないものだ。

実は、中国にも似た町がある。それは渤海湾に突き出た遼東半島の先端部に位置する大連(遼寧省)やハルビン(黒龍江省)だ。ともに出自はロシアで、建設されたのはウラジオストクより若干遅い。いずれも、モスクワから9000km以上離れた極東ロシアと結ぶシベリア横断鉄道の延伸の過程で生まれた町だ。

だが、急激な経済発展を遂げたこれら中国の町は、ある時期までウラジオストク同様、ロシア建築であふれていたものの、今日では世界中どこにでもあるメガロポリスに生まれ変わってしまった。それだけに、19世紀の優雅な雰囲気が残るという意味で、ウラジオストクは貴重な存在なのだ。

文=中村正人 写真=佐藤憲一

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