米中貿易戦争の終結には「体裁」が必要、80年代の日米摩擦と同じ

MAGNIFIER / Shutterstock.com

米中貿易戦争で、失うものがより多いのは中国だ。そのため同国政府は、米政権の要求を受け入れざるを得ないと考えられる。ただし、負けるにしても中国の「面目」は保たれなければならない。1980年代に起きた日米貿易摩擦のときの日本と同じように──。

外国為替証拠金取引(FX)情報サイト「デイリーFX」のアナリストであるレネー・ミューは、米中貿易戦争で当初から問題になったのは、「どちらがより多くを失うか」だったと指摘する。そして、その時点で考えられたのは、次の3つのシナリオだ。

1. どちらも勝者となる:米中両国が貿易に関する主な問題について合意に達し、両国経済への影響が限定的なものにとどまる(この筋書きはすでに破綻)

2. どちらも敗者だが、一方が大敗する:紛争は貿易の分野にとどまるものの、関税に関する主な問題を解決することができない

3. どちらも大敗する:貿易紛争にとどまらず、南シナ海紛争など政治に絡んだ問題にまで発展する

ミューによれば、「マイク・ペンス米副大統領の発言からみて、状況は現在、シナリオの2番目から3番目に移行しつつある」という。

「貿易戦争が長く続くほど、米中はより多くを失うことになるだろう。成長の鈍化は中国経済の回復力を弱める可能性がある。第3四半期の国内総生産(GDP)の伸び率は前年同期比6.5%増で、予想されていた6.6%を下回った」

さらに、「ルイスの転換点」に直面し、「中所得国の罠」に陥っている中国には、米国との貿易戦争を戦うのに十分な準備が整っていなかった。

「中所得国のわな」は、新興国の経済成長が中所得国になった時点で停滞することだ。「ルイスの転換点」は、農村部の余剰労働力が都市部に供給され、農業が労働力不足になること。転換点を超えると賃金が上昇し、労働集約型産業の競争優位が失われることになる。

中国の労働力はインドやベトナム、インドネシアほど安価ではなくなっている 。このことは、鈍化する中国の経済成長にさらなる圧力をかけている。

中国からの「サイン」

中国政府は9月末、1585品目に対する輸入関税率を11月1日から引き下げると発表した。全体の関税率は平均で、昨年の9.8%から7.5%に低下することになる。対象となるのは繊維製品、金属、鉱物、機械、電気設備だ。また、中国はこれに先立ち、医薬品や自動車、自動車部品の大半について、関税を引き下げている。

貿易戦争に勝つのは、米国になりそうだ。だが、1980年代に起きた日米貿易摩擦のときの日本と同じように、中国の面子は保たれなければならない。

米国は当時、日本に対する貿易赤字の一因が、自国の貯蓄率が低いことと巨額の財政赤字であることを認め、これらの問題に対処することを約束。それに対し、日本は関税を引き下げ、米国製品に対して市場を開放することに合意した。これは、双方の勝利であるように見えた。そして、日本の面目を維持することに役立った。

編集=木内涼子

ForbesBrandVoice

人気記事