翻って日本は、わずか3社。研究は一流でも、国内でなかなか事業に結びついていないのが実情です。
日本は遅れているという現実
「米国でのバイオベンチャーへの投資は、2017年は100億ドル(1兆円強)に上るが、日本は3億ドル(300億円強)しかない」
10月12日、横浜で開催されたジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミットにおける「米中アントレプレナーシップ最前線、対する日本は?」と題するミートアップは、ヘルスケアに強いグローバルなVC「Eight Roads Ventures Japan」の香本慎一郎パートナーのこの言葉から始まりました。
筆者はよく、「日本でのベンチャー投資が2〜3倍に膨らんでいるが、金余りでバブルになるんじゃないか?」と質問されることがありますが、「いや、10倍かそれ以上に投資が増えないとダメだ」と答えています。まさに、それを表すような日米の数字です。
また、日本ではしばしば、こうした分野は研究開発に時間がかかるから中国はまだまだ日本に追いつけない、と思われがちですが、それは深刻な現実を知らないだけと言えるでしょう。
ベンチャー投資・育成や中国とのクロスボーダー投資銀行業務を行う上海の「Yafo Capital」のCEO、Sean Jiang氏のプレゼンテーションは、厳しい現実を突きつけました。
2017年、中国ではバイオ・ヘルスケアのベンチャー247社に55億ドル(2014年の23億ドルから倍増)が投資されています。また同年、同分野へのベンチャー投資ファンド56社が集めた総額も急速に増え、300億ドルに上りました。
昨年のアジアのヘルスケアIPOトップ10のうち、9社は中国ベンチャー(主に創薬、バイオ)が占めており、各社のIPO時の調達は1億ドルを超えています。また、国際的に実力が認められる中国ベンチャーも増えており、海外企業へのアウトライセンシングは、昨年から今年8月までに7件、そのほとんどが数百億円級の契約です。
中国が推進する「千人計画」
投資については鶏と卵、つまりポテンシャルのあるベンチャー企業が続々と現れるから金が集まり、金が集まるから起業が相次ぐといったサイクルがあります。では、お金以外の面はどうでしょう?
中国は、ライフサイエンス分野は特に遅れていましたが、「千人計画」と称して、海外の優れた中国人が本国で活躍できるよう、国を挙げて人材を呼び込みました。Jiang氏が示した下記のグラフのように、1000人どころか1万人に迫る新たな人材が中国に集まっています。
パネルに登壇した「HitGen」のCEO、Jin Li氏もその1人。Li氏は、中国の片田舎で生まれ、中国の大学を出て、英国の大学で博士号を取り、英国のバイオ企業とアストラゼネカで働いた後、中国に戻り、2012年にHitGenを起業しました。
HitGenは、1992年に米国で発表されましたが、実現の難しかった理論であるDNA エンコードライブラリーによる創薬支援にフォーカスし、いまや世界的なポジションを獲得しています。つまり、グローバルな視野からテーマを得て、それを事業化したのです。
同社は、中国が力を入れる四川省成都市の天府ライフサイエンス・パークに、300人のチームで本拠を構えています。もちろんベンチャーとして、資金繰りの綱渡りから険しい採用まで、Li氏は困難な体験を語りますが、同時に国から有形無形のサポートを得ています。また、中国では満足できる国内サプライヤーがないという課題もあるものの、ジョンソン&ジョンソンや武田薬品など、海外企業とのアライアンスで解消しています。
このように、人材、テーマ、パートナーなどグローバルに得ることで、HitGenのような価値の高いベンチャー企業が中国で生まれ育っています。