悲観的でカオスな時代から「最高の世界」を引き出す方法

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また例えば、最初からその仕事がずっと存在している大企業に就職すると「何故その仕事が存在する必要があるのか?」について考えることは少ないかもしれませんが、起業間もないベンチャーのカオスな環境下であれば、仕事の存在意義はもちろん、「何故この事業は取り組んで他の事業は取り組まないのか?」「何故自分はこの仕事をしたいのか?」など思考する機会が増えます。

近年では、人工知能などのテクノロジーが「how」を考えることで飛躍的に問題解決できる分野も増えており、それよりも「why」を設計できる頭の方が代替性が低く価値があると言われてきています。

サイエンスにおいても、データが溢れる時代では、「どのように課題を解くか(=how)」よりも「何を課題と設定するか(=why)」の力の方が研究者にとってはより重要になるだろうという話を拙著にも書きました。

企業も個人も同じで、何故自分はこの方向に進むと嫌なのか、何故自分の会社はそこに向かいたいのか、その疑問を積み重ねていくと、目指したい理想の世界が浮かび上がってきます。

それでは次に、なぜ「何故」を積み重ねると自分軸が作られていくのか? という疑問になります。

なぜ「何故」が重要かは、主観的命題が原動力だから

直近で、自分自身や会社のメンバーなどの周囲で発生し、交換される「何故」の疑問を観察してみて、それが何故生まれるのかを考えていました。

その結果、問いはおおよそ以下に当てはまることがわかりました。基本的にすべて自身が関わる「主観」に基づく発想です。

・自分の生活に直接関係する事柄
・自分の未来に関係がある事柄
・自分が期待している(のにそうなっていない)事柄
・自分が関心をもつ事柄
・自分にはないものや異なる考え方

5W1Hの疑問視うち、howやwhatは客観的視点から疑問が生じる場合もあるのに対し、whyのみが「自分」に関わるとてつもなく主観的なものです。

つまり「何故」が発生した瞬間、その思考には主観が影響していることになり、逆に言えば主観を捉えるチャンスとなります。

例えば「この人は仕事ができる」は客観的指標を持って定量化できますが「何故この人は仕事ができるのだろう」と「何故」をつけた瞬間、自分との比較や、自分もこうなりたい、自分との差異は何か、など主観的な思考が含まれます。

また、「今は超高齢化社会だ」と言うことは主観抜きで客観的に話せますが、「“何故”超高齢化社会になっているのか?」となった瞬間、例えば自分の視点の基準は前の時代に比較基準を置いている、超高齢化社会ではない社会を望んでいる、超高齢化社会で起こる問題を解決したいと思っている(=本当はもっといい未来を望んでいる)、などの主観的な考えに気づくことになります。

「何故」の問いを設定することによって主観的な命題に気づくことができ、何を目指したいのかという「自分軸」が発生するようになります。逆に、「何故」の問いの設定能力が低い人は代替性が高く「自分軸」が弱いことになります。

つまり、なぜ「何故」が重要かというと、疑問の中で唯一の主観に基づくものであり、他には代替できない主観を形成する要素となるからです。

起業家でも「前に進む明確な理由がある人」が最も強いですが、その理由のほとんどは主観的な命題によって発生します。

それは企業にとっても同じで、ビジネスがうまくいっているときよりも、うまくいかないカオスなときの方が、何故それでもこの事業をやるのか、何故この事業をやらないのか、の問いを重ねることで企業として強くなっていきます。

「何故」の年輪を重ねることで、屋久島の縄文杉のように企業は太い幹を作っていきます。
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文=高橋祥子

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