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2018.10.01

イスラエルで目撃したスタートアップ大国「好循環」の秘密

John Theodor / Shutterstock.com

21歳の頃、留学先のオーストラリア・シドニーで、ユダヤ系のオーストラリア人と2人で住んでいた。当時、石油を採取するエンジニアになるために学んでいた彼は、私が初めて仲良くなったユダヤ人だった。

時間をきちんと守り、大学の課題もとても効率よくこなす彼と、夜な夜なさまざまな議論をして、楽しい時間を過ごした。とにかく「Make Money」が大事だという彼と、Make Moneyした後そのお金をどう使うかという「目的」のほうに重きを置く私は、いつも手段と目的について話し合っていた。

15年後、イノベーションの聖地であるシリコンバレーで、グーグル本社で働くドイツ系アメリカ人のエンジニアと仲良くなった。彼は、本社とイスラエルのチームを繋ぐ役割を担っていたが、リモートでイスラエルのチームを動かすことはとても難しいと言っていた。頑固で、プライドの高いイスラエル人エンジニアたちは、本社の人間を見下すほど自分たちのほうが優秀だと誇っていたそうだ。

現在も、シリコンバレーに住む多くのユダヤ系アメリカ人の投資家や起業家と親交がある。イスラエルだけにしか住んだことがないエンジニアと、アメリカで生まれ育ったユダヤ人や移住者では考え方や表現にも違いがあるが、根本的な頭の良さは共通しているし、通常の人々が思いもつかない発想力が彼らにはあるように思う。

四国ほどの広さの国土に約870万人が暮らすイスラエルは、人口の75%がユダヤ人。ビジネスの面では、ナスダック上場企業は、アメリカ、中国に次いで多い。数年前には、年間ベンチャーキャピタル投資額が日本の5倍にのぼっていた。

世界中から投資家が集結

今年の5月、シリコンバレーの投資家の先輩がイスラエルに行くと聞き、好奇心を抑えきれず、次の日には、私もイスラエルに飛んでいた。サンフランシスコからアイルランド経由、WOW航空という格安エアラインを使ってテルアビブ空港に向かった。

イスラエルに着いてまず感動したのが美しいビーチだ。海を臨むホテルに泊まったが、早朝でも夕方でも、ランニングをしたり、アスリートのように体を鍛えたりしている人たちを多く見かけた。



スポーツ大国オーストラリアに住んでいたとき、みながそうして体を鍛えていたのを思い出した。やはり、徴兵制があるイスラエルでは、体を鍛えることは普通のことなのだろうか。

朝はビーチを散歩し、ビーチを眺めながら朝食をとった。どうやらイスラエルでは朝から肉料理は食べてはいけないということで割合そっけないものだったが、魚や野菜、フルーツ、パンなどヘルシーなものが多く、なにより景色が最高だった。

現地では、ジェフリーズ証券(Jefferies)が主催する「2018 Mobility Technology Conference」に参加した。午後1時から6時半まで、内容がとても濃いイベントだった。無料にもかかわらず、アメリカからフォード、GM、ウーバーなどのエグゼクティブが参加し、そうした重鎮が基調講演ではなく、いちパネリストとして「モビリティの未来」についてフレンドリーに語っていたのが印象的だった。



大企業にM&Aされたイスラエル発のスタートアップやIPOした企業のパネルなどもあった。シリコンバレーのテックカンファレンスと温度差もなく、ハイレベルでホットな内容ばかりで、会場には世界各国から来た投資家もたくさんいた。

カクテルパーティー(ネットワーキングの時間)で、偶然、昨年UCバークレーのビジネススクールで一緒に学んだクラスメイトと再会した。ドイツ銀行「Deutsche Bahn Digital Ventures」のベンチャーキャピタリストとして働く彼は、初のイスラエル出張で、ドイツやシリコンバレーでは見かけることのない先進的なモビリティースタートアップを探しに来たと言う。

前日には、サイバーセキュリティーのスタートアップを探すため、違うイベントにも行ったそうだ。やはり、いまのイスラエルのホットトレンドは、モビリティーとサイバーセキュリティー関連のスタートアップなのだろう。
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文=森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka

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