レスリーいわく、成功の要因は、私とのセッションで学んだ、相手の性格タイプに合わせた交渉方法だった。それに加え、私たちが新たに作り上げた交渉戦術のいくつかを、予想もしなかったような方法で活用した。彼が挙げた戦術は、考え方をシフトすること、相手を理解すること、社会的資産を尊重すること、の3つだ。
最初の戦術は考え方のシフトだ。レスリーは元々競争好きではなく、同僚やチームメイトを積極的に支援する人物だ。今回の場合、自分がこの問題を解決できたら、自分だけでなく同僚のリアも助けられると思ったことが、重要なモチベーションになった。彼とリアはどちらも子どもがいたので、自分たちだけでなくパートナーのためにも、帰宅することのメリットを考えていた。
2つ目の戦術は、相手の理解だ。ゲート係員は2人いて、欠航便の乗客の対応をしたり、乗客から怒鳴られたりしていた。レスリーは、2人の係員には自分たちを飛行機に乗せるかホテルに送るかを決めるだけの大きな力があることを知っていた。係員2人が乗客らに対応する様子を観察したレスリーは、2人がDISC性格分類の「ドミナント(支配的)」に当たると考えた。このタイプは対立を恐れず、素早い行動を取ることに焦点を当て、(意思決定者であることが多いため)人に指示することに慣れている。
ドミナントタイプとの交渉を成功させるには、直接的かつはっきりと相手に向き合う必要がある。しかしそれだけでなく、どのように会話を進めるかの選択も鍵になることもレスリーは知っていた。彼は礼儀正しくしつつも固い決意を持ち、しつこく食い下がることを謝罪して譲歩する姿勢を見せたり、こちらから一歩引いたりしてはいけないことも覚えていた。
3つ目の戦術は、社会的資産を尊重することだ。私は社会的資産のことを、形がない場合が多いものの、交渉における関係構築の行方を左右する重要な社会的要素と定義している。こうした資産には、尊敬や信頼、誠実さ、勇気といった価値観を守りたいという気持ちをコミュニケーションで示すことが含まれる。
レスリーが非常にうまくこなしたのはこの部分だ。自分が置かれている状況にイライラするのではなく、ゲート係員が持つ問題解決能力を促し、尊重する手法を取った。ストレスに満ちた状況だったのにもかかわらず、自分が相手の価値を認めていることを感じてもらうため、欠航便に乗る予定だった他の乗客の大半とは全く違う方向性で会話を進めた。
レスリーは係員に、自分と同僚がそれぞれの家族の元に帰れる手助けをしてくれないかと頼んだのだ。自分の不満を解決しろと要求したり、係員としてはどうしようもない欠航の責任を押し付けようとしたりはしなかった。彼は質問の力を使い、次のように問い掛けて一緒に問題解決に取り組んでくれるよう促した。
「今夜、子どもや家族のいる家に帰れるように、私たちを助けてくれるヒーローになってくれませんか?」
礼儀正しい態度はどのような交渉でも強い効果を発揮するが、この状況ではまさに大きな強みとなった。尊重と礼儀正しさが欠けている状況では、特に効果的な交渉の切り札となる。レスリーは、論争の多い状況の真っただ中でも思いやりを持ち、偽らず丁寧に係員とコミュニケーションを取るのが最善であることをわきまえていた。そうすることで、係員は自分には力があることを実感し、レスリーとリアは逆境にもかかわらず子どもの元へと帰ることができた。