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電通総研内のクリエイティブシンクタンクによる連載「NEW CONCEPT採集」

気分転換なのか、さぼっているのか自分でもよくわからなくなる人は多いのではないだろうか。でも、「気分転換」の効果がわかれば、生産性もぐんと上がって意外な発見があるかも。病気に薬が効くように、調子をよくする「体験」を処方してみるのはどうだろう。

薬学を専攻した筆者が提案する自己管理法を紹介しよう。


「カテドラル効果」をご存じでしょうか。

日本語に直すと「大聖堂効果」であるこの言葉。天井の高い空間にいると、人は知らず知らずのうちに抽象的・哲学的なことを考えてしまうというものだ。そう言われれば確かに、ギリシア時代にプラトンやソクラテスが哲学議論を交わした「アテネの学堂」の天井は見上げるほどに高いし、ホテルのロビーや教会にいると、上をぼんやり眺めながら自分の人生や将来に思いを馳せてしまうような気がする。

どうやら、人間の思考・気持ちというものは、僕らが考えている以上に「どういう環境でどういう体験をするか」に影響されるものらしい。先の例でいうと、「天井の高さゆえに空中に思わず視線が向き、降り注ぐ白い自然光が目に入り、自分の声が上方に広がって反響し、まるで上から降ってきた音であるかのように耳に入る」という一連の「体験」が、あなたを哲学者に変えている、といった感じだろうか。

逆に考えると。もし自分の状態がさまざまな「体験」からつくられているならば、どんな体験をするかによってある程度自分をコントロールできるはず。それが今回のテーマである「体験の処方箋」だ。病気になると病院で「薬を処方してもらう」のと同じように、自分の状態を変えたいときは自分に「体験を処方する」。例えるならこんな感じだ。(脳内の対話です)

「今日は、どうされましたか?」

「……なんか最近頭がぼーっとするんですよね。土日もぐったり寝てることが多くて」

「もしかして、ここ数カ月、会社と家の往復ばかりで、都会から外に出てないのではないですか?」

「そう言われれば……最近、緑を見てないかも」

「では、都市生活を脱出して自分を変える処方として、日帰り登山、1回分出しておきますね。今週末6:46新宿発のホリデー快速で奥多摩に向かってください。途中の湧き水と頂上の神社参拝を忘れずに」

──確かに、早朝から山に登り始め、太陽の下で汗をかきながら山道を抜け、ようやく頂上に着いてパッと顔を上げたその瞬間、喉の奥に清涼な空気が流れ込み、目には青と白と緑の美しいコントラストが飛び込んできて……という一連の体験には、「自分のすべて」を変える力がある。登山経験者にはわかっていただけるだろうが、昨日までの自分は何だったんだろう、何に悩んでいたんだろう、と思わずにはいられない何かが、その体験には宿っている。

文=山根有紀也 イラストレーション=尾黒ケンジ

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