ビジネス

2018.09.10 07:30

100円が100円以上の意味を持つ「キャッシュレス時代」のリスク


もちろん、今でも「お得意様や常連さんに特別にサービスする」といったことは行われているだろう。しかし、支払手段をデジタル化すれば、「店主との顔馴染み」といった手段に頼らずとも、「誰が支払人か」といった情報を、支払手段自体に持たせることも可能になる。このことは、きめ細かい価格戦略を可能にするなどのメリットもある。

しかし一方で、「子供よりも市長に優先的にアイスを売る」ための道具にもなり得るのである。さらには「この支払人は独裁者にとって都合の悪い人なので、売らないように」など、支払手段自体が「支払ネットワークからの排除」の有効な手段として、圧政や監視の道具に使われる可能性すら考えられない訳ではない。

人間にしかできないこと

さて、冒頭紹介した「MONSTER」では、テンマが命を助けた孤児が怪物と化し、そして最後に再び、瀕死の患者としてテンマの前に現れる。ネタバレになっては申し訳ないので書かないが、目の前の人間が「一人の患者」であること以外のデータをいかに切り落とせるかが医師の矜持であることを、テンマは教えてくれる。

データ社会を、映画「未来世紀ブラジル」が描くようなディストピアにせずに済むかどうかは、ビッグデータを排除や疎外を作り出す「モンスター」にしないような、人間のコモンセンスにかかっている。そのためには、「違い」や「多様性」へのリスペクトや、時には敢えてデータを「切り落とす」判断が求められる。

それこそが、まさに人間にしかできない部分かもしれない。

連載 : 金融から紐解く、世界の「今」
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文=山岡浩巳

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