テクノロジー

2018.08.29 17:00

「もし人類が水中に住むことになったら?」 自然と技術を融合するデザイナーの問い #30UNDER30


──東北大学時代には自ら「TED×Tohoku」を主催されていました。きっかけはなんでしたか?
 
震災後の復興が進むなかで、頭を使って震災復興に貢献できないかと考えたことです。
 
松島では観光が比較的早く再開したのですが、情報不足や風評被害がありました。そこで、東北大学の留学生と一緒に松島を観光して多言語の動画で発信する活動をしたんです。ただそのうち、自分たちの映像製作に発信力不足を感じ始めました。
 
そんなとき思いついたのが、学生時代に観ていたTEDです。動画は松島という「場所」にフォーカスしていたのですが、TEDでフォーカスするのは「人」。さまざまな現場でチャレンジしている人たちの考えを広めることで同じ境遇にいる人の役に立てると思い、2011年にTEDxTohokuを始めました。

技術を伝えるためのデザイン

──2015年にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に進学されていますが、そのきっかけは?
 
ある出会いがきっかけです。震災後のボランティア活動で、福島海底の放射線レベルを測定する研究チームの通訳アテンドをする機会がありました。そのチームに、ホームセンターで買ってきた材料を使って現地で実験器具をつくってしまう変わった人がいて。セザール原田さんという発明家・環境活動家の方なのですが、聞くとRCA出身だと。
 
当時、研究のみで世の中に影響を与えるのは難しいとモヤモヤしていたんです。研究機関では気づきを特許や論文というかたちで出すのですが、そこで止まってしまうケースが多い。生活をどう変えるのかを提案する力がないと、大勢が頭を捻って出した知恵が世に出ないんです。そんなときにRCAの存在を知りました。
 
──RCAで学び、そのモヤモヤは解消されていますか?
 
解消されつつあります。東北時代に培った研究のベースに加え、技術が世の中にどう影響を与えるのかを一般にわかりやすく伝える技術や、デザイナー的視点も身につきました。

──最近の作品に、3Dプリントした人工エラ「AMPHIBIO」がありますよね。実際に機能すると知って驚きました。
 
AMPHIBIOは、「もし将来人類が水中に住むことになったら?」というコンセプトをもとに制作した作品です。現時点で機能するのは水槽という狭いスペース内だけなのですが、人間が必要な酸素消費量も扱えるかテストしたりもしています。近い将来には安全装置も開発し、水槽タンクのような環境で人が使えるかも試す予定です。


「人類が水中で住む未来」をコンセプトにつくられた人工エラ「AMPHIBIO」。

──コンセプトを元に技術を開発したのか、技術からコンセプトを派生させたのか、どちらでしたか?
 
両方ですね。もともと水生昆虫の呼吸メカニズムに興味があって、いつかその技術を応用したいなと思っていました。
 
一方、よく手がける海に関するプロジェクトに関連して「海と人間の未来」というテーマのリサーチをしていたんです。そこで、気温上昇で海に面した都市の多くが水没するという研究結果があることを知りました。そんな環境下での生活を想像したとき、人間の両生類的な生活をサポートする何かをつくるのが一手段なのではないかと思えてきたんです。
 
──「自然に対峙する科学ではなく、それに寄り添う技術をつくる」という考え方は、アジア的・日本的な考え方に思えます。「人間が環境に対応し水中で暮らす」というコンセプトもそのひとつですよね。それをロンドンで共有すると、どのような反応がありますか?
 
確かにその視点に関する質問はよく受けます。西洋では「そもそも海面上昇を止めればいい」とか「水の上に都市をつくる」といった発想の方が一般的なようで、人間の方が自然に適用する発想は面白がってもらえますね。
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文=川鍋明日香 写真=モジュミル・ブレス

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