マテリアルサイエンティスト/バイオミミクリデザイナーの亀井潤は、生体の機能を模倣し工学技術に応用する「バイオミメティクス」とデザインを掛け合わせ、独自の視点で未来を描き出している。「自然と技術」をデザインによって融合する亀井の原点と、作品づくりの思考を探った。
──幼少期をフランスで過ごされたとのことですが、そのころから自然や生き物に興味があったのでしょうか?
初の渡仏が小学1年生で、高校まで数年ごとに行ったり来たりしていました。日本とフランスでは学び方が違うのですが、それが自分にとってはよい経験になりました。
フランスでは、習ったことを知識ベースの一問一答ではなく、文章でアウトプットするんです。高学年になると哲学の授業もあり、総合的な知識が求められました。そういう表現力はフランスで身についたのかもしれません。
自然への興味は、意外と幼少期の影響ではないんですよね。中学高校から化学は好きでしたが、「生物から着想を得る」というアプローチをとるようになったのは大学時代の影響です。
──大学時代と言うと、東北大学で応用化学を専攻されていましたよね。バイオミメティクスの道に進むきっかけは?
大学3年生のときに起きた東日本大震災です。先端科学を勉強する身でありながら、現代科学が大きい自然には到底敵わないことを知りました。
もし今後自分が科学技術の発展に関与するのであれば、自然と対峙する技術ではなく、自然と寄り添う技術がいい。そう思い始めたときに、日本のバイオミメティクスの先駆者が東北大学にいることを知ったんです。しかも、材料分野の先生だと。それでそこの研究室を志望しました。
──2016年の「TED×Aizuwakamatsu」では、バイオミメティクス研究での気付きを共有されていましたよね。「自然のなかのものを形として捉えてはいけない。その背景にある、何でできているのかまで目を向ける」という言葉が印象的でした。
あれは「化学の視点で見たとき、いちばん大事なことは人の目に見えないところで起こっている」というメッセージでした。大切なのは自然を見つめること、そして自然から学ぶ姿勢なんです。
生き物の形状が生まれた背景やその形状が生み出す効果は、直接見えないスケールで起こっている現象によることが多いです。たとえば、真珠貝が美しくかつ強靭なのは、ナノスケールの層状構造によるものですし、水生昆虫が水中で呼吸できるのもマイクロスケールの撥水毛が表面に生えているからです。
自分たちが生きている「ミリ・センチメートルの世界」と、「ナノ・マイクロの世界」では実はまったく違うことが起こっている。世の中の多くの現象は、肉眼では本質が分からないことが多いからこそ、化学的なものの見方や考え方が大切です。この姿勢は、デザインの世界でもビジネスの世界でも応用できることだと感じています。
TED×Aizuwakamatsuで「東北に必要な視点とは」とのテーマで登壇した亀井。自然を生かした自身のデザインアプローチと重ねながら、「東北には『NEW=新しさ』ではなく『FRESH=新しい視点』が必要」と語った。