「5秒以上見つめたらセクハラ」 ルールの明文化は社会にどう影響する?

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セクハラをめぐる議論は世界で活発に交わされている。女性だけでなく男性も知っておくべき、ハラスメントをめぐる最新の常識とは? 女性の働き方に詳しいジャーナリスト・白河桃子に働き方とハラスメントの最新事情を聞いた。

──前回は、職場でセクハラを起こさないために男性個人が気をつけるべきことを中心に伺いました。一方で、会社側はハラスメントをどのように防げばいいのでしょうか。

ハラスメントには大きく分けて、職場の風土などの「組織的」なマクロな原因と、ハラスメントをしてしまう「個人」というミクロな原因があると思います。

私は前者の「組織にハラスメントを容認する風土」があることが問題だと思っています。普段セクハラをしないような人でも、職場がセクハラしやすい雰囲気だったら本人も気づかないうちにセクハラしてしまうし、そうした雰囲気で個人の意識を変えるのは難しいですよね。

また、辛い思いをしている人に「自分から声を上げるよう」と促すのは酷ですし、そもそも根本的な解決策ではないと思います。そうではなく、ハラスメントが横行している環境から変えなければなりません。

──たしかに。セクハラを許してしまう風土があるから、行為に及んでしまうということですね。

そうですね。風土を変えるために大切なのが、法律や社内ルールといった制度の整備です。ですが、残念ながら日本はこの点で先進的ではありません。

わたしは最近、いろんな企業の方を集めてハラスメントの研究会を開いたのですが、外資企業の方に「日本のハラスメント対策は20年遅れている」と言われました。

例えば男女雇用機会均等法では、企業に対して相談窓口の設置や再発防止を義務付けていますが、あくまで措置義務のみ。窓口を設置して終わり。それが機能しているかをチェックしている企業はかなり少ないです。あるアンケートでは、ハラスメントにあっても通報しない人が8割以上。それは窓口が機能していない、信頼されていないからです。

海外との違いでわかりやすいのは、裁判での和解金ですね。日本ではハラスメントで労働局に相談しても、勝ち取れるのは高くて10万円。クビになる覚悟でも、得られるのがこれだけでは、なかなか訴訟に踏み切れませんよね。

一方、06年に和解した北米トヨタのセクハラ訴訟は217億円を請求されました。30億円から60億円の和解金で決着したということです。

──リスクに見合うだけのお金が手に入るのならば、日本でももっと裁判を起こす人も増えそうですね。

その通りです。被害者が声をあげるには、まずは被害者の権利を強化するべきですね。企業なら「報復禁止措置」が明確でないと、誰も声をあげられません。

これからは法律も変わるはずですが、その前にまず企業のルールが変わるはず。そうしなければ、企業の生産性に悪影響をもたらすからです。
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文=野口直希

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