この実験から得られる大きな教訓のひとつは、親権を与えるべき理由を探している時には親Bの良い面に着目する一方で、拒否する理由を探している時には悪い面に注目する傾向があるというということ。同じことをどう言い表すかによって、注目・使用する情報に偏りが出てしまうのだ。
さらに簡単に言い換えると、誰かを選出したり、報酬を与えたりする場合はその人のポジティブな面に注目する一方で、誰かを否定したり、非難したりする場合にはネガティブな面に注目してしまうということだ。
“否定”に注目していないか?
では、この「理由に基づく選択」が部下を褒めることとどう関係するのか? まずは、多くのリーダーが職場へ持ち込む考え方に着目しなければいけない。リーダーたちは、オフィス内を歩き回り、従業員が素晴らしい仕事をしている理由や、ものごとがうまくいっている理由を探しているだろうか? あるいは逆に、誰かのミスや、ものごとがうまくいっていない理由を探し回っているだろうか?
一般的なリーダーは、ものごとがうまく進んでいる理由ではなく、うまくいっていない理由(ネガティブな面)の追求に多くの時間を割いている。実験での陪審員と同じように、リーダーが“否定”に注目してしまうと、実際に起きているポジティブな側面をすべて見落とすことになるだろう。
ひとつの例として、最近自分が参加したプロジェクトの進捗会議を思い出してみてほしい。それが典型的な会議だったなら、遅れが出ている(あるいは遅れそうな)点やリスクがある点、工数と予算の超過低減策など、ネガティブなトピックについてばかり議論し、これまでにあった素晴らしい点の特定には時間を割かなかっただろう。
「理由に基づく選択」理論に基づけば、職場での問題点(親権を拒否する理由)を探すことに時間を掛ければ、無数の問題が見つかる。逆にポジティブな要素(親権を与える理由)を見出すことに注力すると、素晴らしい仕事をしている人々の例が多数見つかるだろう。
リーダーには日々、「否定する」理由を探すか、「与える」理由を探すかの選択肢がある。一般的な「否定」アプローチを選べば、仕事がうまく進まない理由を延々と追求し続けることになる。しかし、「与える」べき理由を意識して探せば、部下の素晴らしい仕事ぶりを認め、褒められるようになる。そうすれば、従業員の仕事への意識と意欲は飛躍的向上するだろう。