しかも、中国の人たちは、専門知識が必要で、労力も並大抵とは思えない自宅の内装を、業者に任せず、自ら取り仕切ろうとする。上海在住の30代OLであるHana花さん(中国版SNS「ウィチャット」上のハンドルネーム)からは、こんな答えが返ってきた。
「中国では、結婚を決めたら、式の前に家を買わなければならない。でも、いま上海のマンション価格は高騰しているので、誰もが新築を買えるわけではない。中古でも新居にするなら内装は必要になる。ではなぜ自分でやるかというと、基本的に中国の人は、国内の業者や職人の仕事が信じられないからなのです」
少し説明すると、中国では建築業者と内装業者は連携しておらず、前者はただハコをつくるだけ。物件をどう使うかについては関知せず、購入者が内装から手配しなければならない。したがって、内装業者に信用が置けないならば、自ら内装をしなければならないことになる。
上海市内の新築高層マンションは見かけは現代的だが、各家庭が内装を手がけているので住居の中身はまったく違う
上海の設計事務所に勤める張亮さん(仮名)は次のように話す。
「なぜ自分たちで内装するのかといえば、業者への不信、職人の質の低さなどはもちろんですが、そもそも中国の住宅物件は、間取りや各パーツの規格が統一されておらず、自分たちの住みやすいように壁を取り壊すなど、間取りまで自由につくり変えたいと多くの人が考えているのです」
結婚式3カ月前には内装を完了
一方、前回のコラムでも紹介したように、32兆円ともいわれる住宅設備市場では、外資の盛んな参入によりグローバルな競争が繰り広げられており、上海のような経済先進都市では、内装に関する膨大な情報があふれている。
たとえば、レストランや映画、旅行情報などの検索や予約のための中国最大の生活サービスアプリ「美団点評」でも、内装業者や家具などの製品情報を探せる「家装」という独立した項目があるほどだ。上海人にとって、いかにそれが日常的な関心であるかを物語っている。
とはいっても、素人が内装に手をつけるにはそれなりの覚悟やサポートしてくれる人間が必要だろう。うまくやり遂げるにはどうすればいいのか。どんな苦労があるのか。そもそもどんな手順で進めていくのか。数年前に行なった新居の内装について、前述のHana花さんの体験を聞くと、以下のようなエピソードが話してくれた。
「ほんとうにたくさんの苦労があります。まず何から始めるかというと、壁や床の素材選びからです。中国では結婚式を挙げる3カ月前には新居の内装を完了させておくというのが普通ですが、それは壁の素材やペンキが身体に良くないことを知っているためで、最低でも3カ月は空気を通しておかなければならない。でも、最近では環境や健康に配慮した新素材も出てきたので、いまなら絶対そちらを選んだでしょう」