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ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信

Mariusz Szczygiel / shutterstock

「訴訟ファンド」というものをご存知だろうか。筆者は、この世界でこれほど賭博性の高い金融商品はないと考えている。大型訴訟の原告に投資をし、勝訴すれば利回り20%や30%の荒稼ぎができるものなのだが、敗訴すればマイナス利回りどころか、元本ごと吹き飛んでしまう。

そのうち、日本にも上陸し、証券化され、一般市民でも買えるようになるだろう。この超低金利時代、魅力的な利回りにつられて吸い寄せられていきそうだが、慎重を期した方がいい。もっとはっきり言えば、射幸性が強すぎて勧められない。

賠償額625億円の訴訟

そもそも、訴訟ファンドはそれほど新しいものではない。有望な訴訟を展開する法律事務所に、判決までの運転資金を提供する仕組みは昔からあった。しかし、それは銀行が事務所の業歴や財務諸表に基づいて資金を提供するという仕組みにほぼ準じていて、訴訟に勝つか負けるかもすべて織り込んでの金融という意味では、製造業への融資とあまり変わらなかった。

ところが、この10年、アメリカの民事訴訟の賠償額がカジノのジャックポットのように高額になってきて、状況が変った。代表的なものは、あるファンドが2010年に約35億円の資金を、ニューヨーク市を相手にした集団訴訟に投資したものだ。

原告は、ニューヨークの911の同時テロで救助にあたった警官や消防士など1万人。市が十分な健康措置をとらなかったので、二次的な健康被害を受けたというものだ。賠償額は約625億円、原告側の大勝利となった。そして、ニューヨーク・タイムズによれば、このファンドはなんと11億円の利益を手に入れている。

自らの命を捧げて市民のために同時テロから市民を救済した消防士たちは、自分たちひとりひとりの力では、とても市を訴え、補償金を獲得することはできない。だから、真っ当な救済を獲得するには集団訴訟しかなかったのだが、このように賠償金額が数百億をめざすような訴訟となってくると、法律事務所が負担するコスト(調査員や専門家の報酬、膨大な聞き取りの人件費など)が膨れ上がり、これまでの訴訟ファンドではとうてい足りなくなってくる。

弁護士も、たとえ大手であっても、1万人の原告を束ねる集団訴訟を手元資金だけでやれる事務所はない。だから、こういう訴訟に金を出すファンドは、むしろ正義のファンドと見られるのだが、果たして本当にそうなのだろうか?

文=長野慶太

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