自社コンテンツのフランチャイズ化を目指すネットフリックスにとって、小説やコミックは無視できないメディアだ。「ハリー・ポッター」シリーズから、「アイアンマン」や「アベンジャーズ」などのマーベル・シネマティック・ユニバース作品まで、近年大ヒットしたハリウッド映画は出版物が原作であることが多い。
メディアが多様化し、膨大な数の映画やドラマが作られている現在、製作者は新鮮なIP(知的財産)を発掘したり、生み出したりすることに必死だ。そしてそのIPのヒットの可能性を探る上で、出版物は便利な存在と言える。
小説やコミックは、映画やドラマに比べると製作にかかる費用、人手、時間が少ない。また、売上数から人気度を測りやすいメディアでもある。映画やドラマの制作会社は、一定数のファンがいることがわかった上で、売れている本の権利を抑える。
ネットフリックスは以前から出版ビジネスに注力しており、2017年8月には独立系コミック出版社のミラーワールドを買収している。ミラーワールドはマーベル・コミックやDCコミックで数々のヒット作を手掛けた大物コミック原作者のマーク・ミラーが設立した会社で、「ウォンテッド」、「キングスマン」、「キック・アス」シリーズなどを刊行してきた。
ネットフリックスが初めての企業買収の相手に出版社を選んだ事実からも、同社がIPの取得を重視していることが伺える。フランチャイズの礎となるコミックや小説の出版から、それらの映像化作品の制作、配信までを自社でコントロールすることが狙いだ。
ネットフリックスをはじめとする映像配信サービス各社にとって、オリジナル作品の製作と配信は、会員数を維持する上でも不可欠である。
一説によると、フールーの米国会員2000万人のうち10〜15%は、マーガレット・アトウッド原作のドラマ「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」がエミー賞の主要部門を制覇してから48時間以内に入会したと言われている。もちろん原作のないドラマが話題になる可能性もなくはないが、一定数のファンがいる人気小説やコミックを映像化する方が安全であることは確かだ。
ネットフリックスとマーク・ミラーによるプロジェクト第一弾「The Magic Order」(原題)は、全6巻のコミックとして来年春に出版される予定だ。内容は魔法使いの一族が悪と戦うダークなファンタジーだという。
このデジタル時代においてはしばしば古くさいと見なされるコミックや小説だが、たった1人か2人の作者の手によって壮大な世界を低コストで生み出せる点は魅力的だ。