1年ほど前、早期退職したコピーライターの先輩から、もの悲しげな言葉を聞いた。社内でも遠巻きに敬意を抱いていた職人タイプの方だっただけに、その心情吐露は胸に響くものがあった。
先月、政府は「人生100年時代構想会議」での検討を経た「骨太の方針」として、社会人の「リカレント教育」を挙げ、情報技術の技能向上などの講座を受ける人への助成金の給付率を4割に倍増するといった支援策を打ち出した。
なにしろ「リカレント教育」だ。日本語にすると「学び直し教育」となるが、なにやら「もう一度高校時代に戻ってやり直せ」と命じられているようにも聞こえる。では、果たしてどこで何を学び直せばいいのだろうか。
メンバーが雑談する時間を確保
先日、23歳の起業家と会った。「お金ってダルい時ない?」と言い放つ北海道育ちの青年は、高校卒業後、家から勘当を言い渡され、2度の起業と1カ月の会社員生活を経て、100万円のクラウドファンディングを成功させ、24時間365日無料で使用できるコワーキングスペース「Chat Base」を東京で運営している。
その若き起業家、井上拓美くんは、Chat Baseの運営会社「MIKKE」の代表も務める。「すべての人を“クリエイター”と再定義し、Chat Baseでは“クリエイターのためのベーシックインカム”として、お金が無くても寝泊まりができ、シャワーが使え、食べ物がある環境を用意しています」
そして、ここに集まったデザイナーやエンジニア、写真家などが、クライアントに対して、アプリやWebサイト、ロゴデザインの制作、さまざまな企画の提案を行うなどしてビジネスを回しているという。
明日の食住を心配することなく、安心してクリエーションに打ち込む。さらに1日に2回ほど、基本的に作業しない時間が設けられており、ここでメンバー間の雑談が生まれるような仕掛けだ。「ZATSUDAN」と呼ばれるこの時間からは、さまざまな新しいアイディアが生まれてくる。
初対面でもふた言目には「ヤバい」と言うスーパーカジュアルな感性と、近未来を感じさせる深遠なビジョンを繰り出す理性を兼ね備えた井上くんには、明らかな次世代を感じた。「ひょっとしてZ世代?」と聞くと、「1994年生まれなんで、ぎりミレニアルなんすよー」とのこと。まあ、“ほぼZ世代”ということか、と納得した。
さて、井上くんたちが運営するChat Baseだが、ホテルのエントランス部分にあり、ギャラリーのようなホテルのフロントとコワーキングスペースが融合するつくりになっている。ホテルの運営を兼ねることで、全体のオペレーションコストを吸収するので、メンバー無料が実現するというのだ。
「これだけオープンな設計だと、いろんな人が入って来て困らない?」と尋ねると、「基本リファラルでしか知られない場所なんで、意外と大丈夫なんすよ。合わない人は自然と去っていきますし。さっきまでいた人は月5500円で暮らすホームレスなんですが、この場所に馴染んで仕事してますよ」と言う。
社員の個人的ツテを使う「リファラル採用」は、ここでも使われていた。新しいようでいて、実は昔からある「一見さんお断り」システムだ。言い方が変わると、なにやら新しいものに見えるのがネーミングのマジックだ。