ブロックチェーンやDLTの、「全ての参加者が全ての取引を記した帳簿を共有する」という方法は、ネットワークや取引量の拡大に伴い、計算負担やそのための電力消費も爆発的に増えてしまうという課題を抱えている。
簡単な例で考えてみよう。A、B、Cという3人が取引を行いながら、分散型台帳を全員で共有しているとする。そこにD、E、Fという別の3人が加わり、ネットワークが2倍になると、2者間の取引のパターンは、3通りから15通りへと5倍に増える。これに伴い、取引量も5倍に増えるとなると、取引を記録する帳簿のサイズも5倍に膨らむことになる。
さらに、この帳簿を、これまでのA、B、Cだけでなく、D、E、Fも含む6人全員で持つことになるので、帳簿の数も倍に増えてしまう。このため、経済全体がこれらの帳簿に割く資源は、10倍に膨れ上がってしまう。
スケールとメリットのトレードオフ
もちろん、技術者はこのような「スケーラビリティ問題」に当初から気付いており、さまざまな改良も試みている。例えば、帳簿を持つ参加者の数を制限したり、帳簿のサイズを小さくするなどである。一方で、そうした試みは、純粋な分散型技術が持つメリットを、ある程度失うこととトレードオフの面もある。
一方で、一般の人々が買い物などに使うマネーは、「使う人が増えるほど効用が高まる」という「ネットワーク外部性」を持つ。
例えば、クレジットカードを持つ人が多ければ、加盟店になるメリットが増えるし、加盟店が増えればクレジットカードを持つ効用も増える。このように、利用の拡大とともに便利さを増すはずの汎用マネーを支える技術インフラに「スケーラビリティ制約がないこと」は、その発展のための重要な条件となる。
もちろん、ブロックチェーンやDLTは高いポテンシャルを持つ有望な技術だし、今後も改良が加えられていくだろう。同時に、これらの技術は決して万能ではない。とりわけ、「取引が増えると、これを上回るテンポで計算負荷が急増する」という、これらの技術が本質的に持つ問題は、これらによって「広く使える仮想通貨」を作ることが、実はそんなに簡単ではないことを示している。
しばしば、「世界とつながる仮想通貨」といった喧伝がされることがあるが、本当に世界中の人とつながったら、その電力消費のために世界中で停電が起こってしまうかもしれない。
少なくとも、「いずれ仮想通貨がソブリン通貨を凌駕する」とか「世界中の人々が仮想通貨で買い物をするようになる」といった主張は、眉に唾して見ておいた方が良いだろう。
連載 : 金融から紐解く、世界の「今」
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