ビジネス

2018.06.29

クレイジーじゃないと、Jクラブは変えられない (後編)

(左)江藤美帆(右)高島祐亮

Jクラブに、いま、新しい風が吹き込まれようとしている。その先陣を切って奮闘するのが、栃木SCマーケティング戦略部長の江藤美帆と、SC鳥取社長室事業戦略特命部長の高島祐亮だ。

前編では、IT業界からサッカークラブに転職をした経緯や、実際に入ってみて分かったJクラブの経営に関する課題点などを聞いた。後編は、「IT業界の視点からJクラブをいかに変えられるか」がテーマだ。2人が考えるサッカー界の未来とは?

──高島さんはスポンサー、チケット、グッズという3つの収益源とは別に、4本目の柱として新規事業開発をしていらっしゃいますが、何か参考にしている事例などはあるのでしょうか。

高島:少し前に、ヨーロッパやアメリカのサッカーリーグを参考にして、孫(正義)さんのようなタイムマシン経営(海外で成功したビジネスモデルを国内で即座に展開する経営手法)を実践しようと考えました。でも、日本サッカー界でそれを実行するのは困難でした。欧米ではスポーツは一大ビジネスとして扱われることが多く、興行が育つ環境がありますが、日本のマーケットは小さく、再現性に欠けたんです。

しかし、継続的に収益をあげる新規事業は必要不可欠です。どうすればいいいかと考えていた中で、海外ではなく、地元鳥取に目を向けました。そこで生まれたのが、2017年に立ち上げた新規事業「しばふる」です。

これは地元のリソースを活用したもので、ホームタウンにある遊休農地を芝生化し、その芝生を販売する事業です。ガイナーレ鳥取ではこれを"第4の柱"としていて、私は事業戦略や広報に携わっています。安定した収入源でありながら、サッカーと芝生は切っても切れない関係なので、企業メッセージとしても外部に伝えやすいですね。


SC鳥取社長室事業戦略特命部長 高島祐亮

江藤:Jクラブで新規事業をやるなら、サッカーとかけ離れた事業では意味がないと思っています。その面でも「しばふる」はサッカーとの親和性が高いですよね。

高島:栃木SCでも新規事業をはじめる動きはありますか?

江藤:うちは新規事業を始める前に、まずは興行面を改善していこうと思っています。栃木がいままでできてなかったのは、マーケティング。来場者に関するデータをとっていなかったので、性別や年代など詳しい情報がわかりませんでした。Jリーグ全体でデータを活用していく流れが出てきているので、栃木でも徹底したいですね。

クラブ運営に役立つIT業界の知見

──IT業界の当たり前が通用しない、まさにゼロイチの仕事ばかりなのですね。

江藤;クラブ運営は確かに大変ですが、全く不可能なことばかりではない気がします。

高島:問題は多いとは思いますが、僕もなんとかできると思っています。これまでのIT業界の考え方、ベンチャー気質なマインドはクラブ運営に活かせるなと。僕の場合は、組織が上手くいかなかった会社も上手くいった会社も経験しているので、組織マネジメントの大切さが身にしみてわかっています。

クラブに従事するスタッフの中でも、営業やエンジニアでは仕事へのやりがいは当然異なります。営業なら「あの企業とスポンサー契約を結べた!」、エンジニアなら「きれいなコードが書けた!」というように。そういった異なるモチベーションで働いている人たちをうまくマネジメントして、みんなが1つの指標に向くようにするのが僕の仕事です。それは今までの経験が大いに役立っていますね。

江藤:私はスタートアップで働いていた時の行動量の多さ、失敗しても気にしない精神が活きていますね。スタートアップで施策をうつと、10回中8〜9回は失敗で、1回当たればいいくらい。とにかくトライの量を多くして、失敗を分析することが大切なんです。

この間、新しい施策を提案して「それ去年やったけどうまくいかなかった」と言われたのですが、「なぜ上手くいかなかったのか?」という原因がはっきりしていない場合も多い。見方を変えて、いろんな角度から実行するとうまくいくこともあります。「とにかくやってみよう」という感覚は、Jクラブ運営でも大切だと思います。

私も高島さんも、スタートアップで働いた経験がありますが、ITの中でもスタートアップ業界は、「これ無理じゃない?」という状況をどうにか覆すのに快感を感じる人の集まりなんじゃないかな(笑)。いまの状態は、まさに「どうにかしてやる」って感じです。
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文=田中一成 写真=小田駿一

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