ロシアというと、何を想像するだろうか。米露関係のニュース、日本との領土問題、はたまたフィギュアスケートの話題など、ロシアに関して日常的に耳にするニュースは意外と限られている。
ただここ数年、「ロシアのスタートアップが盛り上がっている」という話を、各方面からよく耳にするようになった。海外のスタートアップの話題といえば、アメリカ、中国をはじめとするアジア地域に集中し、よほどアンテナを高くしていない限りロシア事情を知る機会は多くない。そこで今回は、ワールドカップ開催地ということにちなみ、ロシアのスタートアップ、またそれを取り巻く環境についてお送りする。
イノベーション都市 スコルコボ
まず、ロシアのスタートアップ事情を語る上で外せないキーワードは「スコルコボ」である。
スコルコボとは、モスクワ郊外に位置する小さな村で、2010年から時のメドベージェフ大統領を筆頭にロシア政府が主導し、約400ヘクタールもの広大な土地をイノベーション都市として発展させようとしている場所。400ヘクタールとは、おおよそ東京ディズニーリゾート(総敷地面積)2つぶんもの広さだ。
スコルコボイノベーションセンター(Pavel Cheskidov / Shutterstock.com)
その広大な土地には、「スコルコボイノベーションセンター」という巨大なインキュベーション施設があり、現在は約1800(2017年時点)のスタートアップが入居。さらにVCや投資家、国内外の大手企業の研究施設(日本からは、パナソニックやファナックがテクノロジーラボを開設)などが集まる。また、MITと共同で作られたスコルコボ科学技術大学(通称「スコルテック」)や、最先端医療を研究する病院も存在。人、金、技術が集まる、一大スタートアップエコシステムが形成されているのだ。
スコルコボイノベーションセンターの内観(Anton Gvozdikov / Shutterstock.com)
ある施設を中心として、スタートアップエコシステムが存在する(または現在構築しようとしている)事例だと、ボストンのケンブリッジ・イノベーションセンターや、パリのStation Fなどに近いだろう。「ロシア版シリコンバレー」と呼ばれることも多いが、イノベーション都市を0から人工的に作り上げている点でシリコンバレーとは異なり、国が主導でスタートアップを盛り上げていくという意味では、シンガポールのスタートアップエコシステム構築プロセスに似ている。
実際にロシアにおいて、主にアーリーステージの企業へ投資を10年以上行っているユナイテッド・マネージャーズ・ジャパンの大坪祐介によると、スコルコボイノベーションセンターに入居するためには、専門委員会の審査を通過する必要。その審査を通過すると、国から研究費という題目で、通過企業へ日本円で約800〜1000万円の支給を受けられる。さらにその後、企業が成長し投資家などから1000万円以上の調達に成功したら、国からグラントとしてさらに1000万円が支給されるという。
「規模の小さいスタートアップにとって、この支援体制はとても恵まれていると思います」と大坪は話す。
スコルコボのみならず、モスクワやサンクトペテルブルクなど他の都市でも徐々にスタートアップは増え始めている。例えば、主にモスクワ周辺でシェアサイクルサービスを提供している「Velobike」。デロイト会計事務所ジャパンデスクの高橋渉によると、5〜10年前までは治安の悪さや道路の安全性などの問題から、自転車自体が全く普及していなかったそう。
モスクワの街中に並ぶVelobike(Alexey Broslavets / Shutterstock.com)
しかし、現在はVelobikeの登場で、2017年に無人自転車ステーションを380箇所、合計2,600台以上のシェアサイクルを揃え、16年には約20万人の人々に使われた。17年9月には、中国の世界最大級シェアサイクルプラットフォーム「ofo」(オフィ)との提携を発表し、さらなる拡大が見込まれている。