今回の出資にはシンガポールの政府系投資会社「GIC」や「テマセク」、マレーシアの政府系ファンド「カザナ・ナショナル」、カナダの年金基金投資委員会「CPPIB」らが参加した。また、プライベートエクイティの「Warburg Pincus」「Silver Lake Partners」「General Atlantic」らも出資した。
アントは今回の資金調達における同社の評価額を明かしていないが、関係筋がフォーブスに語ったところによると、直近の評価額は1500億ドル(16兆3000億円)にのぼるという。これは、未上場企業としてはウーバー以上の企業価値であり、アントは世界で最も企業価値の高い非公開企業ということになる。
アントは2016年に実施した前回のラウンドで45億ドルを調達し、評価額は600億ドル(約6.5兆円)だった。
今回の調達資金でグローバル展開を加速させ、途上国向けの投資も行なうとアントは述べている。「アリペイ(支付宝)」のほか、世界最大のオンライン投資信託「Yu’e Bao(余额宝)」を運営する同社の、究極のゴールは世界中の消費者に金融サービスを提供することだ。
アントはバングラデシュの送金サービス「bKash」やパキスタンの「Telenor Microfinance Bank」など、アジアの金融会社への出資も進めている。香港ではビリオネアの李嘉誠(Li Ka-shing)が率いる長江和記実業(CKハチソン・ホールディングス)との合弁事業を通じ、アリペイの普及を図っている。
アントのチェアマンでCEOのEric Jingは「中国をはじめ世界中のパートナーとともに、オープンなエコシステムを築いていきたい」と声明で述べた。
中国の銀行にも歩み寄る姿勢
アントは先進的テクノロジーの、プロバイダー的ポジションの確立に向けての動きも進めており、将来的にはこの部門の売上が本業に迫る可能性もある。同社はAIを用いた生体認証の仕組みを、中国の複数の銀行向けに導入する契約を結んでいる。そのなかには、中国光大銀行(China Everbright Bank)や上海浦東発展銀行(Shanghai Pudong Development Bank)などが含まれる。
アントの直近の銀行との取り組みは、同社に対して近年高まった、政府からの監視の目を和らげる効果もありそうだ。中国政府はアントが政府系銀行のビジネスを奪い、消費者の債務を膨張させるリスクに神経を尖らせてきた。
上海のコンサルティング企業「Kapronasia」創業者のZennon Kapronは「最近のアントは銀行と対決するのではなく、協業する意欲を見せている。これは政府から見ると歓迎すべきことだ」と述べた。