主役は、マクラーレン・セナだ。500台限定、サーキット指向で、もちろん公道走行できる新ハイパーカーは、3度F1チャンピオンになったアイルトン・セナを讃えて名付けられた。セナの最後のF1優勝から25年というパーフェクトな年に登場となった。
600年の歴史をもつ増上寺では、集まった100人以上の報道関係者を前に、能の大鼓奏者が現れた。彼はステージへと進むと、14世紀から続く独特の打楽器を叩き始めた。同じステージで、1988年、90年、91年にマクラーレン・ホンダ・チームをチャンピオンに導いたヒーロー、セナのハイライト映像が映し出される。
能楽の囃子、大倉流・太鼓の大倉正之助氏の低音・高音を織りまぜた「イヨー、ホーッ」という掛け声と、鋭くドラマチックな鼓の連打は、ハイライト映像と共にクライマックスへと上りつめていった。
アイルトン・セナは、ブラジルに次いで、世界のどこよりも日本でレジェンドとして崇拝されている。日本では、彼こそモーターレースの象徴であり、F1史上もっとも偉大なドライバーと崇められている。
6年にわたり、しばしば最大のライバルであったアラン・プロストと競い、あらゆるリスクを懸け全開で走り抜く走行スタイルで3度のチャンピオンに輝いた彼は、日本で絶賛された。その3回とも、マクラーレン・ホンダ・チームだった。
日本のメーカーが提供するエンジンだったこと、そして日本の鈴鹿サーキットで優勝を飾ったことで、ブラジル人ドライバーは希有のスーパースターとなった。
アイルトン・セナ(1989年撮影、photo by Getty Images/Pascal Rondeau/Allsport)
マクラーレンも、アイルトン・セナとの関係に満足していた。この輝かしい成績は、ホンダの強力なサポートという功績でもある。そして、日本人とメディアは最強レーサー・セナとの愛を深め、彼を音速の貴公子と呼んだ。人々がサーキットに見る夢を実現する彼は、憂いのある瞳と端正な容姿で多くの女性も虜にした。また80年代後期、ホンダのスーパーカーNSXの誕生に貢献したのもセナだった。