ビジネス

2018.06.01 17:00

「良品の供給、需要家の満足」——TOTOが目指すもの

TOTO 代表取締役社長 喜多村円

小倉第一工場を見学するまで、トイレが陶器、つまり焼き物であることを忘れていた。それらは茶碗や平皿と同じく、石や粘土などの原料を調製し、成形、乾燥、施釉(せゆう)という工程を経てつくられる。乾燥や焼成(しょうせい)による収縮と重力での変形も加味され、複雑な形状がいくつか組み合わさって完成する精緻な一台。

それぞれの作業に励む従業員の、まるで伝統工芸職人のような横顔を見て、「ものづくりの誇り」という言葉が自然と脳裏に浮かんだ。

高い技術は、目に見えるところにとどまらない。例えば汚れを防ぐ釉薬は、トイレを使うときには見えない排水路の奥まで塗られている。

「確かに見えるところだけ塗れば、コストダウンはできるでしょうね」と喜多村円(まどか)社長は微笑む。「購入直後は塗ろうが塗るまいが同じようなものでしょう。でも、5年、10年経つと違う。釉薬を塗っていないと排水路に汚れが付着し、汚物の排出がスムーズでなくなってくるのです」

TOTOは、2017年に100周年を迎えた。創立者は大倉和親(かずちか)。欧州視察で見た現地の衛生陶器に驚嘆し、下水道がほとんど整備されていなかった当時の日本に文化的な衛生陶器を広げたいと考え、現在の1億〜2億円に相当する私財を投じて、国産初の腰掛式水洗便器の開発に成功。1917年、地の利のよい北九州市小倉に東洋陶器(現TOTO)を設立した。

大倉の願いは「国民の生活文化の向上」だった。だが、腰掛けて用を足すというスタイルが受容され、和式便器と洋式便器の出荷台数が逆転したのは77年と、創立から60年後だ。

いまや日本人の生活必需品となった温水洗浄便座も、「ウォシュレット」をTOTOが販売したのは80年で、累計出荷台数が1000万台を突破したのは98年。生活に浸透するまで20年近くかかっている。

「よく『日本のトイレはきれい=民度が高い』とか『日本人はきれい好きだからトイレ文化が発展した』と言われますが、実はそうではない。例えばTOTOは鉄道や高速道路サービスエリアなど、施主様とともにきれいなトイレを増やしてきましたが、公共のトイレがきれいになったから、皆の意識が変わったんです。汚れていないと、汚さない。そのような特性が人間にはあると実感しました」

技術を磨き、環境整備を地道に行い、「お客様に喜ばれる商品を愚直につくり続けること」で、海外にも花開くと喜多村は考える。
次ページ > 海外でも活躍するTOTOブランド

文=堀香織 写真=佐藤裕信

この記事は 「Forbes JAPAN 時空を超える、自分を超える異次元のワークスタイル」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

10年後のリーダーたちへ

ForbesBrandVoice

人気記事