豪著名科学者が「完全な市民権」求め出国、問われる安楽死の是非

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オーストラリアは近く、最も有力な科学界の知性を失うことになる。同国のエディス・コーワン大学の名誉研究員、デービッド・ウィリアム・グドール(104歳)は自ら人生を終えることを決意。スイスのバーゼルにある専門のクリニックに向けて西部パースの自宅を後にした。

著名な植物学者、生態学者であり、36巻が発行されている「Ecosystems of the World(エコシステムズ・オブ・ザ・ワールド)」の編集長でもあるグドールは、本記事執筆の時点で、国内最高齢の現役の科学者だ。エディス・コーワン大学は、所属する8校目の高等教育機関となる。

第一次世界大戦の開戦直前、1914年4月14日にロンドン北部のエドモントンで生まれたグドールは、長く実りある人生を送ってきた。数世代の生徒たちの教育に携わってきたほか、生態系に関する画期的な研究を行い、論文を発表してきた。そして、毅然としつつも常に礼儀を重んじ、現実的な考え方を保ってきたのだ。

グドールは英インペリアル・カレッジ・ロンドンで理学士号と哲学博士号、豪メルボルン大学で理学博士号を取得し、その後は数十年間にわたり、オーストラリアと英国、米国の複数の大学で教壇に立ってきた。

あらゆる意味で、彼は地球上の生命について、そして地球そのものの生命について、生涯をかけて学んできた人だ。自身の人生を自ら終わらせることを決意した動機についても、生活の質が大幅に低下してきたことを挙げている。豪テレビ局の記者から4月初旬、誕生日にあたってコメントを求められた際には、率直にこう答えていた。

「この年齢に達したことを、非常に残念に思っている」「私は幸福ではない。死にたいのだ。特別に悲しいことではない…私のような高齢者には、ほう助自殺の権利を含めた完全な市民権が与えられるべきだと思っている」

安楽死に関する議論

世界のその他の各国と同様、オーストラリアでも現在、ほう助自殺の権利に関する議論は最も重要な問題とされている。この問題に関するグドールのオープンで率直な態度は、国内の安楽死支持者らを強く後押しすることになった。

自分の人生を自分で終わらせるというその決意が、「自らの意識に基づく理性的なものである」というのは、あまりにも控えめな言い方のように思える。グドールは末期患者ではない。そして、現在も仕事をしている。この事実は一連の手続きに、ある種の困惑も与えるものだ。

ただ、グドールの影響力の核心にあるのは、誰にも否定できないその冷静さと、科学研究の成果だ。何十年もの間、グドールはその研究分野において決定的に重要な存在だった。「エコロジー(生態学)」「エコシステム(生態系)」という言葉がポピュラー・サイエンスにおいて標準的に使われる言葉となる前から、さらにはこれらが学術用語として完全に定着するずっと以前からだ。

グドールは80代半ばのころから、自身を支援する非営利団体、安楽死を支持する「Exit International(エグジット・インターナショナル)」と関わってきた。これは、「生物学的に」という言葉が持つあらゆる意味において、自然なことだったように思える。グドールは明らかに、生物としての自らの次の段階への移行について、長い間考えてきたということだ。そして、すでに準備はできているということだ。

編集=木内涼子

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