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2018.04.23

人の管理から開発へ 「人財」時代の人事のあり方

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経営の中で人材という経営資源がどう位置づけられてきたのか。俯瞰的に経営の潮流をたどってみると、そこには「人をどう見るか」という思想の変遷がうかがえる。

人事がこれまで、経営の中でどのような役割を担い機能してきたのか、その変遷を見てみよう。

従来から今に至るまで必要とされる機能の一つは「労務管理」「人事管理」である。採用から配置、異動、教育訓練、人事考課、賃金、時間管理など、勤務に関する一連の管理を集約させることによって、人事という機能は経営の効率化に寄与してきた。特に生産志向の強い時代には、労働環境の整備や労働者の権利など法制度の遵守や対応をする役割として、人事機能は会社にとって欠かすことができない基盤であった。

一方、「モノをつくれば売れる」時代から付加価値や嗜好性にニーズが変化するなか、企業の創出価値をいかに高められるかが問われるようになってきた。経営の姿勢も、生産志向から、製品志向、販売志向、顧客志向へと変化する。

生産量を増やすだけならば、作業者の人数や使う原材料の量を増やせばよかったが、顧客が求める価値を生み出すのは量の投入やコストの削減だけでは実現されず、人のアイデアや工夫された行動やマネジメントによって、大きく成果が異なる時代となった。

こうした考え方から、人をコストではなく資源としてとらえる「人的資源管理」という概念として人事という機能が捉えられるようになった。ヒューマンリソースマネジメント(HRM)と呼ばれる。量的な上限があるモノやカネというほかの資源と異なり、人という資源は能力発揮次第で測り知れない可能性を持っている。

そうした考えに基づき、能力開発に重点を置く「人的資源開発」(ヒューマンリソースディベロップメント、HRD)という考え方へと発展し、さらに人は資源ではなく資産だ、という考え方に基づいた「人的資産管理」「人的資産開発」という考え方も現れてきた。

人は材料でなく「財産

呼称の違いは経営学における論調の変遷にすぎないとみることもできる。しかし、例えば近年、人は“材料”ではなく“財産”だという考え方から「人財」という言葉を使う会社が増えてきたように、企業や現場で使う言葉によって、その思想や意図がより顕著に表れていると言えよう。

なぜこのような変遷を辿っているのだろうか。それは経営における戦略性の重要度が増してきたことがあげられる。多くの資本を投下すれば、あるいはコストを削減すればよかった時代には、「人」は企業の経済的な付加価値を生み出す資源でしかなかった。しかし、経営の重点は戦略へとシフトし、企業には希少価値や、模倣困難、価値創造といったものが求められる時代となった。

そしてその競争優位の源泉として「人」を捉えることが重要になってきた。人そして組織は知識や技能や技術を持ち、感情や意思を持つ。人事的な施策や教育、環境によって大きくその成果やパフォーマンスが変化する。技術的なスキルアップだけではなくキャリア開発やモチベーション、理念浸透などソフト側面における環境の影響が重要だという認識も高まり、人材開発に加えて組織開発に取り組む会社も多い。

さらに、近年は顧客志向から社会志向へと経営の志向も広がっているのではないだろうか。環境意識、情報管理・発信など企業の姿勢が社会から常にみられている。中でも働き方に関してはここ1、2年で注目度があがっている。これまでは採用・賃金・教育といった人事の機能をいかに戦略のなかで位置づけるかが重要であったが、今後は人事ポリシーそのものが経営にインパクトを与えるようになってきているといえよう。

「人的資源管理」の考え方が主流になって以後、人や組織に関する施策を中期経営計画に記すことも珍しくはなくなってきた。今後は人に対する経営の考え方そのものをステークホルダーに説明する機会が増えていくのではないだろうか。

連載 : 人事2.0-HRがつくる会社のデザイン
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文=堀尾司

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