すべての個人情報を捕捉する中国フィンテックの危険性

街角の果物屋でもモバイル決済が当たり前。アプリ会社が割引を補助している。一方、店先に貼り出されたQRコードを狙う輩もいる


もうひとつ、気にならざるを得ないことがある。前回近所の食堂からデリバリーアプリを使ってホテルの客室に朝ごはんを出前してもらった話を書いたが、その際の配達料は7元(約120円)。日本のように飲食店の人間が出前をしているわけではない。店と契約したバイク便が破格の安さで代行しているので、広く利用されているわけだ。

では、バイク便の仕事は誰がやっているのか。大半は上海の都市戸籍を持たない出稼ぎ労働者たちである。中国のECが発展した背景には、彼らの存在とその労働条件を気にかけない社会があるといっていい。


中国では街にバイク便があふれている。中国のECを支えているのは彼らである

朝から晩まで出前を運んでいる彼らは、そこそこは稼いでいるという話もある。建設労働が一服したいま、上海に残っている地方出身の出稼ぎ労働者にとってバイク便は格好の商売なのかもしれない。

ただし、昨秋、中国でバイク便の事故が多発しているという報道があったように、都市戸籍を持つ人たちに比べ、とても楽な仕事とはいえない。今後日本よりはるかに進んでいるといわれるドローンが、彼らに代わる日が来るのかもしれないが、やがては使い捨てにされる存在であることには変わらない。


こんなに荷物を積めば事故が起こっても仕方がない?

そんな中国で、外国人がふだん利用している検索エンジンやSNSなどをシャットアウトする動きが進んでいる。もはや中国では「Yahoo Japan!」の検索は使えない。さらに4月から、これまで多くの人たちが中国のファイアウォールを乗り越えるべく利用していた「VPN(バーチャル・パブリック・ネットワーク)」も、許可されたもの以外は違法となったという。

2月下旬の段階では、「VPN」機能の付いた日本のWiFiルーターをレンタルしていたので、問題なく「Gmail」や「フェイスブック」を利用できていたが、今後はどうなるのだろう。すでに中国人から日本とのビジネスに支障が出てきている話も聞く。

中国当局は、外国人が感じている出稼ぎ労働者問題に対する素朴な疑問や違和感といったことすら、自国民に知られたくないかのようである。この過敏すぎる規制は誰のためなのか?

もっとも、これは彼の国の話である。多くの論者が現金志向の強い日本でキャッシュレス化が遅れた理由をあれこれ解説してくれるが、遅れているかどうかはたいした問題ではない。今後、日本では深刻な労働力不足が進むなか、安易に移民を受け入れることには慎重な議論も多い以上、商取引の決済の効率化が求められている。いま考えるべきは、我々の社会が抱える課題に応じたモバイル決済も含めたキャッシュレスの仕組みをどう設計するかだろう。

そのためにも、すでに日本よりはるかに進んだシステムを構築した中国から何を学べばいいか。海外の良いところを取り入れ、そうでないものは取捨選択する。このように海外の先行事例を、自分たちに合ったしくみに変えていくのは日本のお家芸だったはず。中国のフィンテックが日本の社会にそう考えるきっかけを与えてくれたのだとしたら、それは悪くない話かもしれない。

連載 : ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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文・写真=中村正人

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