総調達額は3億7000万ドル、評価額は16億ドルを突破。ユニコーン企業(企業価値10億ドル超えの未上場企業)の仲間入りを果たすなど、急成長を遂げているフィンテックスタートアップが「TransferWise(トランスファーワイズ)」だ。
同社は2011年に創業。英ロンドンに拠点を置き、P2P(ピア・ツー・ピア)技術を用いた海外送金サービスを提供している。2018年現在、64か国でビジネスを展開しており、日本では2016年9月にサービスの提供を開始している。
「一般的な銀行を経由して海外送金を行う際、実は隠れたコストが発生している。私たちはそんな既存の仕組みに違和感を覚えたんです」
TransferWiseの共同創業者、クリスト・カーマンは海外送金サービスを始めることにした理由について、こう語る。同氏によれば、一般的な銀行では海外送金の際、手続き手数料だけでなく、売値と買値の差(スプレッド)を手数料として徴収しており、顧客は知らぬ間に高い手数料を支払ってしまっているという。
例えば、その日の為替が1ドル=110円だったする。この110円は外貨→円貨(TTB)レートを使って計算されているが、海外送金する際のレートは円貨→外貨(TTS)で計算される。TTSが115円だった場合は、1ドルにつき5円の為替手数料が課せられることになる。
そんな仕組みをディスラプトするためにTransferWiseは誕生した。
なぜ、こんなにも海外送金の手数料は高いのか?
創業のきっかけは、共同創業者二人の原体験にある。時は遡ること、10年前──。2008年当時、もうひとりの共同創業者、ターベット・ヒンリクスはロンドンに住みながら、エストニアの首都タリンに拠点を構える会社「Skype(スカイプ)」で働いていた。
ロンドンとタリンを行き来する日々。給与はユーロで支払われており、ターベットはタリンからロンドンへ、海外送金を使って給与を送金。
一方のクリストはロンドンで働いていたが、エストニアにユーロで支払う住宅ローンを組んでおり、毎月、海外送金を使って支払いを行っていた。
そんな二人は海外送金に対して、共通の思いを持っていた。
「長い時間、銀行の窓口に並ばなければならない上に、着金されるまで時間がかかる。また手数料がすごく高い。仕組みとして、何かが間違っていると思いました」(クリスト)
そこで二人は、ちょっとした実験を始める。毎月、為替レートを確認しながら、そのときのユーロとポンドの適正な為替レートでお互いの口座に、それぞれの国で支払いを実行した。
ターベットはタリンの自分の口座からクリストのタリンの口座に送金し、クリストはロンドンの自分の口座から、ターベットのロンドンの口座へ送金する。資金自体は国境を越えていないため、銀行を経由することで発生する“隠れコスト”を支払うことなく、「タリンからロンドン」への送金を実現させた。
TransferWiseのサービスの仕組み
これをさまざまな国の間で実現可能にしたのが、TransferWiseというわけだ。
「お金は自由に取引されるべき。きっと同じ悩みを抱えている人は世界中にいると思いましたし、これをビジネスにしようと思ったんです」(クリスト)
同サービスは世界中に銀行口座を開設。その口座をP2P技術を活用して繋げることで、より早く、より安いコストで海外送金が行えるようにした。例えば、日本からアメリカに海外送金をしたい場合、TransferWiseの日本の口座にお金を振り込むだけでいい。
その後、その時点でロイターやヤフー、グーグルの為替レートを使って両替が実施され、TransferWiseのアメリカの口座から米ドルでアメリカにいる受取人へ支払いが行われる。
実際にかかるコストは海外送金手数料のみ(送金額の0.5~1%)。手数料は発生せず、一般的な銀行と比較して最大8分の1の手数料で海外送金が実施できる。