そんなことを思いながら、ランチタイムを迎える。どこかで美味しいものでも食べようかと思いつつも、向かう先はコンビニエンスストアか近くのお弁当屋さん。10分くらいで買ってオフィスに戻り、自分のデスクでご飯を食べる。
気がつけば「何を食べようか」と考えることすら面倒になり、ルーティンのように毎日同じようなものを購入する…そんな働く人たちのお昼ご飯の選択肢として、昨今、注目されているのが「フードトラック」だ。
東京都福祉保健局の「食品衛生関係事業報告」によれば、フードトラックの数は年々、右肩上がりに増加。東京都で営業許可を取得したフードトラックの数は10年前と比べて、1.5倍になっている。
そんなフードトラックに着目し、ビルの空きスペースと個性豊かなフードトラックをマッチングするサービス「TLUNCH」を運営しているのが、Mellowだ。創業からわずか2年で、提携するフードトラックの数は350台を突破し、運営するスペースの数は60箇所を超える。
なぜ、Mellowはフードトラックビジネスを手がけようと思ったのか。また、彼らは事業を通じてどのような社会を創り出そうとしているのか。代表の柏谷泰行に聞いた。
Mellow代表取締役 柏谷泰行
「大腸ガン」になって気づいた、自分がやりたい事業
─昨今、AI(人工知能)、VR(仮想現実)、ブロックチェーンなど、さまざまなテックトレンドが台頭する中、ある意味、アナログとも言える「フードトラックビジネス」に着目され、事業を立ち上げた経緯は何だったのでしょうか?
柏谷:もともと、自分はスマートフォンアプリの企画・制作を行う、イグニスの取締役を務めていました。イグニスは東京証券取引所マザーズ市場へ上場し、順調に成長していたのですが上場から数年後、30歳くらいのときに自分は大腸ガン(現在は完治)になってしまって……。
今までは必死に会社のことだけを考えて生きてきたのですが、大腸ガンになって、初めて「明日死んでも、後悔しない事業は何だろうか」と、自分が本当に"やりたい事業"について考える機会があったんです。
いろいろと考えてみた結果、どうせ時間を使うのであれば、自分が手がけて意味があったと思える仕事をしたい。それこそが自分のやりたかったことだと思い、そこから具体的に何をすべきかを考えていきました。
事業のアイデアを考えている中で思ったのは、日本には虚ろな目をしてお昼にコンビニ弁当を食べて、すぐに仕事へ戻る。まるで死んだ魚のような目をして働いている人が多くいるということ。そういった人たちを元気にする仕事ができれば、絶対に誰かを幸せにするし、自己満足にもつながっていくので明日死んでも後悔しないのではないか、と思えたんです。
それを軸にいくつかの分野に絞って事業アイデアを考えていたら、フリークアウト・ホールディングス前社長の佐藤裕介が「最近、フードトラックが面白そうなんだよね」という話をしていて、フードトラックに興味を持ちました。
柏谷さんが衝撃を受けた、「TOKYO PAELLA」のパエリア
それでフードトラックにご飯を買いに行き、実際に食べてみたら、めちゃくちゃ美味しかったんです。衝撃を受けましたね。その一方で、これだけ美味しいご飯がリーズナブルな価格で提供できているのはなぜなのか。フードトラックビジネスの仕組みが気になり、取締役を務める傍ら、お昼の空き時間を使って、フードトラックで働いてみたんです。
実際に働いてみてわかったのは、フードトラックビジネスの凄さはコスト革命を起こしていたところにあったんですよね。
─実際にフードトラックで働くって凄いですね(笑)。ちなみに、どういう仕組みだったのでしょうか?
柏谷:普通の飲食店をオープンするためには店舗の内装工事費や保証金で1000〜2000万円くらいかかるほか、毎月家賃も支払わなければならない。とにかくお金がかかります。その一方で、フードトラックはトラック1台と未活用のスペースがあればいいので、200万円くらいで店舗を持つことができるわけです。
スペースは時間単位で必要な分だけ貸してもらえばいいし、基本的には1人でできるので人件費もかからない。また人がいる場所にお店を出せばいいので、食べログなどに広告費を払う必要もない。とにかく料理の質を高め、接客を頑張ってリピーターをつくれば、どんどん利益を出せるモデルなんです。
でも、決していいことばかりではなくて……。料理人が不動産のオーナーにテレアポして会ってもらえるかというと、会ってもらえる確率は極めて低い。スペースの確保も一筋縄ではいかないわけです。稀に、個人宅の駐車場を借りている人もいますが、毎日同じ場所でやっていたらお客さんは飽きてしまう。
その問題を解決しようと思い、ビルの空きスペースと個性豊かなフードトラックをマッチングするサービス「TLUNCH」を立ち上げることにしました。フードトラックを普及させていけば、働く人たちのランチの新しい選択肢になるし、飲食店開業の新しいモデルをつくることにもなるな、と思ったんです。